『運転保安設備の解説』5(併合閉そく)
(『運転保安設備の解説』4(連査閉そく式)のつづき)
今回は、国内の旅客路線では絶滅してしまった「併合閉そく」についてのお話です。
かつて非自動閉そく方式路線の一部では、複数の閉そく区間を一つの閉そく区間にまとめる「併合閉そく」という運転方法が用いられていました。
これは、列車本数の少ない時間帯に閉そく取扱い駅の数を減らして人員配置の効率化を図ろうというもので、例えばA駅-B駅-C駅の2閉そく区間を併合してA駅-C駅の1閉そく区間とすることにより、B駅の駅務を休止して駅員を引き上げることができます。
併合閉そくはあらかじめ併合する区間(◯◯駅-□□駅間)と併合する時間帯(◯時から□時まで、あるいは第◯◯列車から第□□列車まで)を定めて実施されます。
下図は昭和36(1961)年3月1日改正の函館本線・室蘭本線ダイヤで、右端に閉そく方式と併合閉そく方式の欄があります。閉そく方式欄の算用数字は基本閉そくである通票閉そく式の種別、併合閉そく方式欄の漢数字は併合閉そくである票券閉そく式の種別を示しています。例えば小樽-余市間の基本閉そく(通票閉そく式)は小樽◼️塩谷▲蘭島◼️余市、併合閉そく(票券閉そく式)は小樽●余市という具合でした。
反対に、併合閉そく方式欄に記載のない小沢-倶知安間は24時間基本閉そくのままということになります。当時の小沢駅からは岩内(いわない)線が分岐していた関係上、小沢駅を併合閉そくの中間駅にできないという事情がありました。
併合閉そくで運転される列車のスジには( )のように、併合区間ごとに()が付されます。

鉄道ピクトリアル No.937(2017年10月号)から
なお、長万部-森間の閉そく方式の「A」は自動閉そく式(Automatic block system)、森-軍川(現・大沼)間の「C」は連動閉そく式(Controlled manual block system)です。連査閉そく式(Tokenless block system)はダイヤ上では「T」で表されます。
乗務員用の運転時刻表では、併合閉そく時の通票種別は下のように表現されていました。昭和48(1973)年10月改正の宗谷本線急行「宗谷」の時刻で、停車場名欄に記載された通票種別は黒色が基本閉そく時、赤色が併合閉そく時のものです。

鉄道ピクトリアル No.1007(2023年1月号)から
基本閉そく時の音威子府-天塩中川間は音威子府◎(楕円)筬島◼️神路●佐久◼️天塩中川、併合時は音威子府▼天塩中川となり、同様に豊富-兜沼間でも3閉そく区間を1閉そくにまとめる併合が行われていました。併合時は票券閉そく式を使用するため、第3種が逆向きの▼となっています。
なお、親サイト「通票よんかく」線区別通票種別一覧に各路線の通票種別に加えて併合閉そく時の種別も掲載していますので、ぜひご覧ください。(PR)
続いて、併合閉そくの実務編です。

連査閉そく式は基本閉そく用とは別に併合閉そく用の連査閉そく器を使用します。例えばA駅-B駅-C駅の2閉そく区間をA駅-C駅に併合する場合、A駅にはB駅用とC駅用の2台の閉そく器を設置する必要があります。
通票閉そく式の併合閉そく時は閉そく器を使用停止にして、特別な装置や設備が不要な票券閉そく式を使用。票券閉そく式の路線も併合用の通券箱を用いて併合閉そくを行なっていました。
また、上記では省略されていますが、連動閉そく式の併合時も原則として票券閉そく式が使われました。しかしながら、基本の玉なし運転(トークンレス)に対し併合時のみ通票や通券を使用すると通票不携帯などの取扱いミスを誘発するおそれがあり、上記の室蘭本線ダイヤの掛澗-渡島沼尻間および銚子口-軍川間のように連動閉そく式による併合を行うケースも見られました。これは、併合閉そく区間が連続した軌道回路となるよう中間駅(渡島砂原および池田園)の構内にも併合用の軌道回路を設けるもので、併合時もトークンレスが維持できるメリットはあるものの、ただでさえ設置費用が高額な連続軌道回路にさらに併合用の設備投資が必要となるので、ごく限定的な運用にとどまっていたようです。
さらに、もうひとつの非自動閉そくであるスタフ閉そく式については終端駅が無人駅となるので、他の閉そく方式と組み合わせても併合閉そくは実施できないことになります。
さて、基本閉そくから併合閉そくに切り替えるには、併合によって駅務を休止する駅(併合中間駅)の「併合閉そくてこ」を操作し、閉そくの体系から切り離された棒線駅(停留所)化する必要があります。

上記の「併合閉そくてこ」の説明で①は連査閉そく式、②は他の閉そく方式とも共通の事項です。
連査閉そく式の場合、「併合閉そく器(本文中では「機」)」は下図のように基本閉そく用の閉そく器に付設されているものと、基本閉そく用とは独立した別筐体のものの2種類があったようです。

併合の時刻が近づくと関係各駅は併合の準備に入ります。
1) 併合中間駅は両側の併合境界駅と連絡を取り合った上で併合閉そくてこを操作(場内・出発信号機が消灯し、分岐器が指定の進路方向に切り替わって鎖錠され、基本閉そくの回線が併合閉そくの回線に切り替わる)。
2) 中間駅は境界駅に併合作業が終わった旨を通告し、境界駅は併合閉そく器の使用を開始する。
併合閉そくから基本閉そくに戻す場合は、この逆手順で行われます。
つづいて、通票閉そく式と票券閉そく式の併合です。

1) 併合中間駅は両側の併合境界駅と連絡を取り合った上で併合閉そくてこを操作(場内・出発信号機が消灯し、分岐器が指定の進路方向に切り替わって鎖錠され、閉そく用電話の回線が境界駅同士を結ぶように接続される)
2) 中間駅は境界駅に併合作業が終わった旨を通告し、境界駅は通票閉そく器に「使用停止」の札を置いて閉そく器の取扱いを休止する。
通票閉そく式の併合時は票券閉そく式となるため、連査閉そく式のように併合用の閉そく器を別途設置する必要はなく、併合用の通券箱とこれに対する通票1個を備えればOKです。
なお、併合中間駅の信号機が腕木式の場合は、信号機を進行現示(反位)にした上で併合閉そくてこを操作することにより反位に鎖錠され、信号柱に付設された「使用停止表示灯(×印)」が点灯します。
まだ鉄道路線の大半が非自動閉そくだった時代、併合閉そくは全国で当たり前のように実施されていましたが、1970年代後半からの急速な自動閉そく化と相次ぐ路線廃止に伴い、併合閉そくが使用されるシーンも激減していきました。
併合閉そくが実施されていた最後の旅客路線は、よんかくが知る限りではおそらく連査閉そく式の山田線盛岡ー宮古間でした。一方、貨物専業路線の非自動閉そく方式はスタフ閉そくがほとんどなので、併合閉そくが行われている可能性は限りなくゼロに近いと考えられます。
【併合閉そくあれこれ】
併合閉そくの原理原則は以上のとおりなんですが、路線や事業者によってさまざまなパターンがありました。
(1) 併合が基本
併合閉そくは深夜帯など一部の時間帯に限って実施されるのが常ですが、逆に一部の時間帯のみ基本閉そくでその他は併合閉そくとなる線区がいくつかありました。
木次線木次-出雲横田間は基本が木次■出雲三成▲出雲横田、併合が木次◎出雲横田ですが、出雲三成駅では夕刻の1回しか列車交換がなく、その時刻の前後のみ基本閉そくに戻るだけで、他の時間帯は併合閉そくを施行していました。
名古屋鉄道三河線のうち廃止となった碧南ー三河平坂ー吉良吉田は基本2閉そくで、平日朝のみ三河平坂駅で列車交換を数本行った後は翌朝まで併合閉そくとなり、土日祝ダイヤでは一日中併合しっぱなしでした。
同じく名鉄谷汲線(廃止)はさらに顕著で、月に一度の谷汲山華厳寺命日と年始の増発ダイヤ時だけ黒野ー北野畑ー谷汲の基本2閉そくに戻り、それらの日以外は毎日、黒野ー谷汲の併合1閉そくで運転していました。
(2) 季節閉そく
陸羽西線は7つの基本閉そく区間を新庄ー余目の1閉そくにまとめる併合を行っていましたが、12月~3月は排雪列車の運転を考慮して新庄ー清川ー余目の2閉そくの併合としていました。
また、北上線の横手ー相野々ー黒沢ー陸中川尻(現・ほっとゆだ)は基本3閉そく、夜間の併合時は横手ー陸中川尻の1閉そくでしたが、12月~3月は横手ー黒沢間のみ併合し、黒沢ー陸中川尻間は終日基本閉そくで運転していました。北上線では深夜にも貨物列車の設定があり、降雪時のダイヤ乱れに柔軟に対応できる体制をとっていたものと思われます。
一方、またまた木次線では出雲坂根ー備後落合間が基本1閉そくのところ、冬季のみ出雲坂根ー油木ー備後落合の2閉そくで運転していました。夜行のスキー臨時列車が乗り入れていたことによるものですが、併合閉そくとは逆の「閉そく区間の分割」という珍しいケースでした。このため出雲坂根駅には出雲横田方、備後落合方、油木方の3台の通票閉そく器が置かれ、冬季以外は油木方通票閉そく器は使用停止とされていました。
(3) 併合時も通票閉そく式
前述のように、国鉄・JRでは通票閉そく式路線の併合閉そくを票券閉そく式で行うこととされていましたが、通票閉そく式の樽見鉄道では、通票を持つ駅からしか列車を出せない票券閉そく式では不都合だったためか、大垣ー東大垣ー北方真桑ー本巣の基本3閉そく区間を1閉そくに併合した時も通票閉そく式で運転。併合時には一般的なタイヤー式通票閉そく器を緑色に塗り替えたものを使用し、基本用との混同を避けていました。
同じく通票閉そく式の小坂精錬小坂鉄道では、大館ー茂内ー小坂の基本2閉そくを1閉そくに併合した際には大同信号D型閉そく器を使用し、通票の形状も糸巻きのような「わん型」という、円盤状のタブレットとは全く異なるものだったため、基本と併合が容易に区別できるようになっていました。
下は同和鉱業時代の小坂鉄道の昭和57年3月改正ダイヤですが、花岡ー大館間の花岡線は終日基本閉そく◼️、大館ー小坂間の小坂線は基本が大館▲茂内●小坂で併合が大同D型閉そく器による併合となっています。

鉄道ピクトリアル No.937(2017年10月号)から
(4) これって併合できませんか?
現存する旅客路線の非自動閉そく方式は全てスタフ閉そく式が関わっています。
津軽鉄道 津軽五所川原(タブレット)金木(スタフ)津軽中里
由利高原鉄道 羽後本荘(スタフ)前郷(タブレット)矢島
JR名松線 松阪(タブレット)家城(スタフ)伊勢奥津
くま川鉄道 人吉温泉(タブレット)あさぎり(スタフ)湯前
前述のように、そもそもスタフ閉そく式は終端駅を無人化するために導入されているので、例えば津軽鉄道の津軽五所川原ー津軽中里間で併合閉そくを行おうとすれば無人駅の津軽中里駅に閉そく扱い要員を置く必要があり、わざわざ併合する意味がないということになります。
(5) 最新の非自動閉そく方式では?
北条鉄道では、途中駅の法華口駅に列車交換設備を設置するにあたり、自動閉そく式よりもローコストな非自動閉そく方式「票券指令閉そく式」を新たに開発・導入しました。法華口駅は無人のまま、運転指令との通信により乗務員がICカード版通票を用いて閉そくを行う方式です。
平日朝夕の列車交換がある時間帯以外と土日祝はピストン運転となるので併合閉そくが実施されているかのように思えますが、票券指令閉そく式の特性上、全時間帯において法華口駅での通票扱い(ICカードの認証)という作業が必須であり、常時北条町ー法華口ー粟生の2閉そく運転が行われています。
【参考文献】
鉄道ピクトリアル
No.630(1996年12月号)「併合閉そくのはなし」
No.937(2017年10月号)「非自動閉そくの論理と定義」
No.1040(2025年8月号)「国鉄ローカル線の運行に寄与した連査閉そく式のしくみと運転」
