キハ40 @ 票券指令閉そく式

(2023年9月30日撮影)

兵庫県の播磨平野を走る北条鉄道(粟生-北条町間)は、法華口駅に交換設備を設置(復活)するにあたり、自動閉そく式よりもコスト面で有利な票券指令閉そく式を採用したことで話題となりました。
従来の票券閉そく式の考え方を一歩進め、列車には通票代わりのICカードを携帯させるとともに、線区を統括する指令員との通信によって閉そくを確保する全く新しい非自動閉そく方式です。
2020年8月に使用開始されていましたが、コロナやら何やらでなかなか訪問が叶わず、遅ればせながらやっと現地を訪れることができました。

神戸電鉄粟生線で粟生駅に降り立つと北条鉄道らしからぬ車両が・・・

草むらに放置されているように見えますが正規の停止位置です

JR東日本からキハ40を購入し営業運転を始めていることはもちろん知ってはいたのですが、今日が運転日だと知らずにふらっと来てしまったもので、予想外の対面に少しく驚いてしまいました。
ついこないだ北海道でイヤというほど見てきところなのに、今年はなぜかキハ40に縁があります。

数々の勲章(銘板)に「北条鉄道」が加わりました

とはいえ、転換前の国鉄北条線や電化前のJR加古川線でもキハ40や47が主力を張っていたので、両線の利用者にとっては、車両の塗色が違う点を除けばちょっとタイムスリップした感じかもしれません。

切れてしまいましたが加古川線の103系と国鉄型ツーショット

内装・外装とも秋田所にいた時とほぼ変えていないそうです。
今までキハ40・47は実によう乗ったなぁ〜と思いつつ、ボックスシートの並びに一種の形式美のようなものを感じてしまうよんかくなのでした。

しかし貼ってあるものは統一感なさすぎ…

路線図もそのまんまで、眺めているとちょっとした旅行気分になれ・・・るかなと。 
秋田時代は五能線・男鹿線・津軽線あたりを走っていたそうなので、そう思うとよくまぁ遠路はるばる北条鉄道へ…と労をねぎらいたくなります。

運転台を拝見。
こちらも一見、何の変わり映えもないように思えますが・・・

おおっと、通券・通票の文字が!
これぞまさしく、票券指令閉そく式で使用されるICカード版通票です。
黄色⬛︎が北条町-法華口間、緑色●が法華口-粟生間で、今日は休日ダイヤで法華口での列車交換がないため、1列車が両区間の通票を携帯しています。
真ん中の通票が入っていない赤枠は、平日朝夕の法華口での列車交換がある時に、北条町-法華口間で使用される通券のホルダーです。

運転時刻表にも通票種別⬛︎が記載されています。

ここで、キハ40から票券指令閉そく式に話を戻します。
ちょっと長くなりますが、関心のある方はお付き合いください。

北条鉄道の平日朝ダイヤでは法華口での列車交換は6時台から8時台までで、その前後の時間帯は粟生-北条町間のピストン運転となります(夕刻にも交換のある時間帯あり)。
従来型の非自動閉そく方式では、北条町-法華口間を票券閉そく式、法華口-粟生間をスタフ閉そく式とするのが基本と考えられ、この方式は現在もJR名松線で施行されています(松阪-家城間…票券閉そく式、家城-伊勢奥津間…スタフ閉そく式)。
ただし、この方式では法華口駅に通票・通券を扱う駅員を配置する必要があり、運転コストの増嵩が避けられません。かと言って自動閉そく化は小規模鉄道にとって費用負担が大き過ぎます。
そこで考え出されたのが票券指令閉そく式で、もともと北条町駅にいる運転指令員に遠隔操作で法華口駅員の役目を持ってもらうことにより、票券閉そく式やスタフ閉そく式と同等の運行管理を実現するものです。

下図ダイヤは平日朝ダイヤにおける通票・通券の動きを示したものです。
特許情報プラットフォームに掲載されている票券指令閉そく式の特許公報によると、概ね下記1〜5のような取り扱いがされるようです(「詳細な説明」の【0068】以降が北条鉄道のケースに相当します)。

列車運行前は、北条町駅にある「閉そく親機」に北条町-法華口間通票(黄矢印)北条町-法華口間通券(赤矢印)法華口-粟生間スタフ(緑矢印)(いずれもICカード)が収納されています。

1 北条町駅指令員は粟生行1番列車(以下「第1編成」)に北条町-法華口間通券法華口-粟生間スタフの2つを携帯させて出発。
2 第1 編成が法華口駅に到着後、同駅の「閉そく子機」収納部に通券を収納(収納とともに北条町駅の閉そく親機が収納の旨を表示)。運転士は指令員に収納の旨を無線で報告。
3 指令員は閉そく子機収納部に通券が収納されたことを確認し、第1 編成運転士に返答。運転士がスタフを粟生方閉そく子機の認証装置にタッチするとATS地上子が停止動作を解除し出発信号機が反位(青)となって、出発可能となる。
4 指令員は閉そく子機収納部に通券が収納されていることを再度確認のうえ閉そく親機を操作して北条町-法華口間通票を取り出し、粟生行2番列車(以下「第2編成」)に携帯させて出発。
5 粟生駅で折り返して来た第1 編成及び北条町駅から来た第2編成が法華口駅に到着後、両編成の運転士が互いに通票スタフを交換し、それぞれ出発方向の閉そく子機の認証装置にタッチ。双方向へのATS地上子が停止動作を解除し出発信号機が反位となって、各列車出発可能となる。
2列車運行が継続されている間は5の手順を繰り返す。

そして、8時台に法華口駅で午前中最後の列車交換を行って北条町駅に到着した列車は通票を指令員に返却し、通票は閉そく親機に収納されます。
一方、午前中最後の列車交換を行って粟生駅で折り返して法華口駅に到着した列車は、指令員に無線で通券の取り出し許可を申請します。指令員は閉そく子機に通券が収納されていること、閉そく親機に通票が収納されていることを確認のうえ、閉そく親機を操作して閉そく子機の収納部を解錠。法華口駅の北条町行運転士は閉そく子機から通券を取り出して認証装置にタッチすると北条町方への出発が可能となり、通券スタフを携帯して北条町駅へと向かいます。
北条町駅到着後、運転士から通券スタフを受け取った指令員はそれらを一旦閉そく親機に収納し、次の粟生行列車発車前に閉そく親機を操作して通票スタフを取り出して運転士に渡し、出発させます。

基本的には従来の票券・スタフ閉そく式の取り扱いを電子化した感じですが、票券指令閉そく式独特の取り扱いとして
 (1) スタフを閉そく親機に収納するため北条町駅まで持ち越す(搬送)。
 (2) 最終交換を行なった北条町行は通票を携帯し、続行の北条町行が通券を携帯する。
特に(2)は、票券閉そく式の鉄則である「先行列車が通券、続行列車が通票」の逆順となります。

さて、私が訪問した日は土日休ダイヤで列車交換はありませんでしたが、法華口駅では出発信号を反位にするため通票とスタフの取り扱いシーンを見ることができます。

北条町行列車が法華口駅到着後、客扱いののち指令員に無線で到着を報告

北条町-法華口間通票を北条町方認証装置にタッチ、出発信号が青になる

信号と時刻表を確認し、出発進行

逆に、粟生行列車は粟生方認証装置にスタフをタッチして出発します。

さてさて、北条町駅に到着後は元・三木鉄道フラワ2000-3との並び。
1979年製、車齢40年超のキハ40535もここではまだ2年生です。
まさか、この時代に通票を持って走ることになるとは思いもよらなかったでしょうが・・・

キハ40のために作られた特製サボ

今も沿線ではカメラを構える姿がちらほらと見受けられました。
高齢車両でメンテナンスも大変でしょうが、温暖な地の平坦な線路をのんびり走り続けて欲しいものです。

キハ40の取り持つ縁