名鉄美濃町線のエレガントな通票扱い

とさでん交通伊野線のことを書いていたら、ふと名鉄美濃町線のことを思い出しました。

名古屋鉄道美濃町線はかつて岐阜市内と美濃市の美濃駅とを結んでいた軌道線(2005年3月限りで全線廃止)で、下図の徹明町-競輪場前-新関-美濃間に該当します。
主に徹明町-日野橋間と、各務原線・田神線経由の新岐阜(現・名鉄岐阜)-新関間の2系統の運転で、田神線経由の電車には複電圧車が充当され田神-市ノ坪間のデッドセクションで1500V・600Vの切り替えを行っていました。
末端部の新関-美濃間は、早朝深夜を除いて両駅間の折り返し運転です。

名鉄時刻表1989年版から

このうち、複線の徹明町-梅林間を除く区間及び田神-競輪場前間が単線の通票式区間です。
通票種別は、梅林■競輪場前▲野一色●日野橋■下芥見▲白金●赤土坂■新関▲神光寺●美濃、田神■市ノ坪●競輪場前(のち新関-美濃間廃止とともに関駅が新設され、新関●関)。
日中ダイヤの競輪場前-日野橋間では続行運転が行なわれていて、美濃方から新岐阜発着車・徹明町発着車の順で並んで走行していました(新関行は日野橋行に先行し、徹明町行は新岐阜行に先行するという関係)。

YouTubeよんかくチャンネル名鉄美濃町線では各電停での通票授受の様子を収録しています。
動画にも出てきますが、基本的に梅林での通票授受は行われず、梅林■競輪場前の通票は徹明町まで持ち越し(搬送)されていました。

                   音量にご注意ください

 

美濃町線の通票扱いにおいては、一種独特とも言える特徴がありました。

● 競輪場前駅での通票リレー
徹明町方と田神方からの線路が合流する競輪場前駅には通票授受を取り扱う係員が常駐しており、交通量の多い交差点を係員が縦横無尽に走り回って3方向の通票を取り交わすという凄まじい光景が、日中15分ごと(1991年当時)に繰り広げられていました。
下図は係員の動線を緑色の矢印で示したものです。

Wikipedia「競輪場前駅(岐阜県)」の配線図をベースにしました

① 日野橋方から先行・徹明町行(続行票掲出)及び続行・新岐阜行(野一色▲競輪場前の通票所持)がそれぞれの乗降場に到着、徹明町行運転士は続行票を取り外す。係員は新関行から通票(市ノ坪●競輪場前)を受け取る。
② 新岐阜行から通票▲を受け取り、通票●を渡す。
③ 新関行に通票▲を見せ、運転士が続行票を掲出。
④ 交差点を渡って日野橋行に通票▲を渡し、梅林■競輪場前の通票を受け取る。
⑤ 徹明町行きに通票■を渡す。
(①②で新関行より新岐阜行が先着した場合は、先に新岐阜行から通票▲を受け取り→③で新関行に通票▲を見せつつ通票●を受け取り→新岐阜行に通票●を渡し④へ、の手順となる。)

以上で一連の通票授受が完了し、各方面への電車がそれぞれ出発していきます(日野橋方面へは新関行が先行、日野橋行が続行)。
なお、競輪場前駅係員の奮闘ぶりが「残しておきたい鉄道風景」さんの【残しておいてよかった鉄道風景】通票全力疾走授受に記録されています。

●美濃-神光寺間の玉運び電車
新関-美濃間の保安区間は新関▲神光寺●美濃の2区間ですが、早朝・夜間を除く時間帯は神光寺での交換はなく、新関-美濃間を1区間に併合してピストン運転が行われていました。
平日朝の美濃町線ダイヤでは神光寺8時31分が午前中最後の交換となり、各区間の通票は当該交換を行った電車がそれぞれの終着駅に持ち去ってしまうので、神光寺での交換がない新関8時42分発美濃行(A車)は神光寺-美濃間の通票●がないことになってしまいます。
そこで、A車に通票を渡すための玉運び電車(種別上は回送)が美濃を出発し、神光寺で通票●をA車に渡したのち、自らは続行票を掲出して美濃へ戻っていくダイヤが組まれていました。
玉運び電車の直後に続行するA車は新関-神光寺間の通票▲をそのまま搬送するので、美濃では両区間の通票が揃うこととなり、これによって新関-美濃間が併合で運転できるようになりました。
「玉」とはもともとタブレット閉そく式で用いられる真鍮製のタブレットを示す現場の符牒でしたが、のち広く通票全般を指すようになりました。

名鉄時刻表1989年版をもとに作成

ちなみに、美濃9時06分発以降の新関-美濃間併合運転にあたっては、両区間の通票を背中合わせにしてゴムバンドで括束して携帯し、美濃では神光寺-美濃間の通票●を表向けにして発車、神光寺到着時にくるりと裏返して新関-神光寺間の通票▲を表向けにして新関へ向かっていました。
上記のよんかくチャンネル名鉄美濃町線の8:20あたりから新関発美濃行電車の運転シーンが始まり、神光寺での「併合通票裏返し」もご覧いただけます。

なお、上図ダイヤでは早朝に美濃発新関方面行の電車が4本連続で併合運転しています。7時台から神光寺での交換が始まるのですが、このあたりにも何か裏ワザが潜んでいるに違いなく、次回はその辺の謎解きを試みたいと思います。

【参考文献】「さよなら腕木式信号機&タブレット 」君島靖彦  現代企画室 2000/8