加悦鉄道資料館
(「加悦SL広場」のつづき)
かつて国鉄宮津線丹後山田駅(現・京都丹後鉄道与謝野駅)と加悦(かや)駅を結び、1985年5月に廃止となった加悦鉄道。その車両や資料を保存・展示していた「加悦SL広場」(2020年閉館)には訪問したことがあったのですが、このたび未訪問だった「加悦鉄道資料館」に行ってきました。
(2024年9月28日撮影)

加悦鉄道資料館は旧・加悦駅舎をそのまま活用した施設で、加悦駅があった場所(現・与謝野町加悦庁舎)から道路を隔てた向かい側にあります。
ここには加悦SL広場閉園後に移設された2号蒸気機関車と客車2両、京都市の大宮交通公園から里帰りしてきたC160蒸気機関車の計4両が保存されています。

加悦SL広場では加悦鉄道以外にも多種多様な車両が保存されていたのですが、閉園後はそれぞれの車両ゆかりの地や希望する団体・個人に譲渡されるなどして離散状態となり、加悦に残っているのは今のところこの4両だけです。

さっそく資料館を見学します。
加悦鉄道は丹後山田-加悦間のほか、両端からさらに貨物線が延びていました。
南端の大江山駅でニッケル鉱石を積み込み、日本冶金工業岩滝工場へ運ぶための専用線です。
閉園した加悦SL広場は大江山駅跡地にありました。

日本冶金工業の工場は現在も同位置で操業中です
待合室だったところに車両の座席が置いてあります。
国鉄オハ62型客車を改造した気動車キハ083のもので、客車時代そのままの背ズリが板張りというかなりの年代モノです。
(「加悦SL広場」のトップ写真がキハ083です)

出札窓口はグッズ販売窓口に。

もと駅事務室だった部屋にはワンペアの通票(タブレット)閉そく器。
加悦鉄道の起点駅だった丹後山田駅の閉そく器をそのまま移設したものです。当時の通票種別は天橋立▲丹後山田●丹後大宮でした。
※通票閉そくはJR移行後に「タブレット閉そく」と呼称変更されましたが、このページでは国鉄時代の通票閉そくという呼称を使用します。今はタブレット=「タブレット端末」ですしねぇ

しかもこの2台は配線がつながっていて、通信用プランジャ(電鍵)を押すと隣の閉そく器の電鈴が鳴ります。
よんかくもさっそくやってみました。
【動画】鳴らしながらブツブツ言ってるのはよんかくの声です
もちろん実際は天橋立方の閉そく器の電鍵を押すと天橋立駅にある閉そく器の電鈴が鳴り、丹後大宮方の閉そく器の電鍵を押すと丹後大宮駅にある閉そく器の電鈴が鳴るわけですが、今はそんなこと出来っこないので、ここにある2台1組で閉そく作業が再現できるようにしてあります。
いちおう閉そく作業のやり方は知っている(つもり)なのでその旨をスタッフ氏に申し出ると、この日は閉そく器の扱いに詳しい方がおられないということで、チンチンボンボン鳴らすだけで終わりました。
ぜひいつか閉そく作業をやって閉そく器から通票を出してみたいものです。

閉そく器の横にもすごいものが置いてありました。通票通過授受時、駅から通過列車に対して通票を渡すための「通票授器(さずけき)」です。これも丹後山田駅にあったものと思われます。

通票を収めたキャリア(大きな輪がついた通票の収納用バッグ)をこの授器にセットすると写真のような状態になります。
通過列車の機関助士や補助運転士が窓から手を差し出し、授器にセットされたキャリアの輪に腕を通して、または車両に付属のタブレットキャッチャーを使ってキャリアを取り去って行きます。取り去られた後は斜めになっていたアーム部分が錘の力で直立し、一本の柱のように戻るという仕掛けです。
通票授器は地域によってさまざまな形状のものがあり、この形のものは主に近畿〜中国地方で採用されていたようです。自動化前のJR因美線ではこのタイプの全金属製のものが使われていましたが、支柱が木製というのは初めて見ました。
通票授器があれば「通票受器(うけき)」も・・・と後ろを振り返ると、隣室の入口手前に佇んでおられました(汗
こちらは通過列車から駅が通票を受け取るための用具で、アームが列車に向かって水平に突き出るようにセットされ、通過列車の機関助士や補助運転士はこのアーム目掛けてキャリアの輪を投げるように引っ掛けます。これも近畿〜中国地方でよく見られた「井上式受器」と呼ばれるものです。

下から見上げたところです。
アームの先からキャリアの輪を通すとΩ形の部分に輪が引っかかってアームが落下する仕掛けです。

文章ではなかなか伝わりにくいのですが、これらと同タイプの通票受器・授器を使用していたJR因美線での通過授受の様子をYouTubeよんかくチャンネルに数本上げていますので、百聞は一見にしかせんべい(汗)、実際の使用場面をご覧ください。
【動画】YouTubeよんかくチャンネルから「急行「砂丘」那岐通過」
さらには、丹後山田駅ほか宮津線内の駅で行われていた通票通過授受の動画を自由に閲覧できるパソコンまで備えられており、まさしく「非自動閉そくの楽園」の趣を呈しています。
この動画をDVD化もしくは配信してもらえればとても嬉しいんですが(希望)

閉そく器、通票受器・授器で超興奮の坩堝に嵌まり込んで長居してしまいましたが、館内にはまだまだ数多くの興味深い品々が陳列されています。

閉そく器をはじめ国鉄宮津線や丹後山田駅関係のものが目立ってはいますが、もちろん加悦鉄道で使われていた展示品もたくさんあります。
下の写真の腕木式信号機は腕木の形状からして国鉄のものではなく、加悦鉄道オリジナルでしょう。

ちょっと離れたところに1台ぽつんと「はぐれ閉そく器」がありました。
もう完全にインテリアとして溶け込んでいます。

これも懐かしい「便所」標示。
せっかくなので便所も拝借いたしました(汗

こちらは加悦鉄道で使用されていたレール。加悦鉄道は1926(大正15)年12月5日開業とあってか、レールはほぼ外国製です。
またまた蛇足ですが、開業直後の1926年12月25日から「昭和元年」となります。なので、昭和元年は1週間ほどしかありませんでした。

きっぷ類とダッチングマシン。
なぜか票券閉そく式で用いられる通券が、きっぷと同じような顔をして並べられています。

これ以外にもまだまだたくさんの展示品があるのですが、とてもここでは紹介しきれないので、ぜひ現地を訪問されることをお勧めします。
時間が来たので、本当に来て良かったですと丁重にお礼を申し上げて資料館を辞することとしました。
入場無料でここまで楽しませて(興奮させて)いただいたお礼も込め、グッズを数点購入しました。

加悦鉄道は旅客営業5.7キロ、貨物線を含めても10キロちょっとの小鉄道でしたが、廃止後40年近くにわたり車両や資料が保存され、決して便利とは言えない立地ながらも資料館が運営されてきたことに、地元の方々や関係機関の方々の大変な努力と熱意を感じずにはいられません。
よんかくとしてはぜひ再訪したい場所です。閉そく作業もやりたいし
加悦鉄道資料館(指定管理者・特定非営利活動法人加悦鐵道保存会)
京都府与謝郡与謝野町加悦433