ひこさんのひこぼし
(「ふねこフェリー」のつづき・2024年10月12日撮影)
これから日田彦山線経由で日田駅へ向かいます。
日田彦山線の添田駅から久大本線接続駅の夜明駅までの区間は、2017年の豪雨災害による長期不通とバス代行運転期間を経て、2023年8月にBRT(バス高速輸送システム)「日田彦山線ひこぼしライン」として再スタートを切りました。JRとしてBRTの採用は気仙沼線・大船渡線BRTに続く2例目です。
まずは列車で添田駅まで。添田止まりの列車は過去にも設定されていたので、ここは以前と何ら変わることのない日田彦山線の日常的風景です。
車両はキハ47のエンジンを高出力のものに換装したキハ147形。車内は座席のモケットこそ張り替えられていますが、ほぼ昔ながらのキハ47のままですね。
フツーの券売機で購入したフツーの短距離きっぷです。
鉄道とBRTの運賃は通算されないのでかなり高くなったのかなと思っていたのですが、100円の乗り継ぎ値引きもあって全線鉄道時代の1650円より気持ち上がった程度でした。
列車はエンジンを震わせ、重たい車体がおもむろに動き始めました。
城野駅では添田方からの到着列車を待って、いよいよ日田彦山線入りです。
日田彦山線は2〜3回ぐらいは乗り通しているはずなのですが、前回乗車がいつだったのかが思い出せません。ちょっと初乗りのような気分でワクワクします。
ちなみに、国鉄・JRの路線名には両端駅や主要駅の駅名から1字ずつ取ったもの(仙石線、米坂線、太多線、吉都線…)が多く見られますが、駅名をそのまま繋いだ路線名はこの日田彦山線と指宿枕崎線の2つしかありません。
土曜日とはいえ通勤通学時間帯なので小倉行列車の本数が多く、石原町駅でも列車交換がありました。
千鳥式ホーム、構内踏切・・・遠い昔に見たような長閑さが旅の心を擽ってくれます。
採銅所駅。
銅の採掘場があるわけでもないのに不思議な駅名やなぁとかねがね思っていたのですが、開業当時の所在地が福岡県田川郡採銅所村(現・田川郡香春町大字採銅所)という、純然たる地名由来の駅名なのでした。
もっとも古代には、宇佐神宮に奉納する神鏡や東大寺大仏の建立にこの近辺で採掘された銅が使われたという伝説が残っているそうです。
香春駅で列車交換。
約40年前の高校時代に初めてこの駅を通った時は香春岳一ノ岳がまだ山の形をしていたのですが、石灰石の採掘が進んだ今は低い台形みたいになってしまっています。
全山石灰岩の山が社会の発展のため身を削られてきた姿に、現代人として深く痛み入るしかありません。
香春岳一ノ岳
筑豊炭田の香りがすっかり薄れた車窓風景を望みながら、列車の終着駅・添田に到着。
その昔は2面3線のホームと貨物用の中線を持ち、添田線(香春-添田間)の分岐駅でもある大きな駅だったのですが、今は1面1線+BRT乗り場という簡素なたたずまいとなりました。
大きな車止標識の向こう側にはレールを剥がされた細長い土地が延びています。
ただ「ここは終着駅ではない」と主張するかのように、駅名標にBRTの次駅名を記してあるのがせめてもの救いでしょうか。
ひこぼしラインの駅名標はこのデザインで統一されています。
添田駅は西鉄バス筑豊(後藤寺方面行)との共用乗り場なので、西鉄ロゴも入っています。
駅の隣には添田駅の旧駅舎が残っていて、BRT運行主体のJR九州バス添田支店が入っています。
日田行の発車時刻まで時間があるので、同じく旧駅舎内に店を構える添田カメラさんを訪ねることにしました。
同店のサイトには膨大な数の国鉄時代の九州各地の駅や列車の写真が掲載され、通票扱いなどよんかくツボの写真も大量にあるため、一度現地を訪問してみたいとずっと思っていたのです。
店内にはサイト掲載写真の紙焼きファイルがこれまた大量に置いてあり、その場で好きな写真を抜き取って購入することもできます。私も各線の通票扱い場面や旧・嘉穂信号場の写真など10枚ほど買いました。
写真のほか、おみやげ品やいろんな小物類も販売されています。
添田カメラさんとJR九州バス添田支店との間にD51115の模型が置いてあります。
さすがの門デフです。
ちょっと早めにBRT乗り場へ。
中型ディーゼルバスの日田行「ひこぼし5号」の入線です。
他にも小型の電気バスがあり、時間帯と運転区間によって使い分けられているようです。
こういう時LED行先表示器が恨めしいですな
運転席斜め後ろの特等席の位置は荷物置き場になっているので、中ドア直後の少し高い席に着席。
車内は座席がさらりと埋まる感じの乗り具合です。
BRTというと線路敷を舗装した専用道をひたすら走るイメージですが、ひこぼしラインの専用道は彦山駅から宝珠山駅までの14.1キロと鉄道代替区間(添田-夜明間29.2キロ)の約半分で、その前後の区間は一般道を走る路線バスと何ら変わりはありません。ただ、一般道区間の停留所にも「駅」という呼称が公式に使われていて、あくまでも鉄道代替という意識が強くうかがえます。
添田駅を出て県道に入るとすぐ脇道に外れ、最初のBRT駅・畑川(医院前)駅に到着。文字どおりクリニックのすぐ前まで行ってくれるので便利です。ここでお年寄りが1人乗ってこられました。
あとは旧線路にほぼ並行する県道を辿り、旧鉄道駅を含め数々の「駅」を経て彦山駅に着きました。道幅が広がっていて行き違いができる「交換可能駅」です。
ここから先の専用道区間はバス1台分の道幅しかない「単線」なので、鉄道の閉そくのような運行管理システムが導入されています。
彦山駅到着とともに運転席横に設置されたタブレット端末に「交互通行区間 進入禁止」の表示が出ますが、しばらくすると「出発が許可されています」に表示が変わりました。ちょうど出発信号機が停止から進行に変わるのと同じですね。これぞまことのタブレット閉そく?
発車してしばらくすると一般道との交差点ゲートがあります。一旦停止してリモコン操作でゲートを開き、先へ進みます。
【動画】彦山駅を発車
緩くカーブする線形、狭い橋梁や切り通しなどはまさしく鉄道なのですが、変な言い方ですが乗り心地が良すぎて、鉄道時代の思い出や感傷に浸るにはかなり物足りない思いです。
まもなくバスは深倉トンネルと4379メートルの釈迦岳トンネルへと進み、運転士氏肉声でのガイドが入ります。長いトンネルですが、BRT化にあたって短間隔で設置された照明や反射板がとても明るく感じられます。
【動画】深倉トンネルと釈迦岳トンネル
釈迦岳トンネルを抜けるとすぐ筑前岩屋駅です。
専用道区間の途中駅唯一の交換可能駅で、運行用タブレット端末が再び「進入禁止」を表示し、のちに「出発を要求しています」に変わります。ほどなく対向の添田行が到着し、めでたく列車交換。
対向車が到着するとタブレット端末が「出発が許可されています」表示に変わり、次の大行司駅に向けて発車します。この間、運転士氏がどのような操作をしているのか仔細には見えませんでしたが、鉄道でいう特殊自動閉そく式(電子符号照査式)と同様の仕組みで運行管理が行われているようです。
ひとつ気になるのは、鉄道ならば停止信号を無視して発車してもATSで列車を強制停止させたり安全側線に乗り上げさせたりという対策が施されていますが、BRTにはどのような冒進対策が行われているのか?ということです。例えば「進入禁止」中に車両が動けばそれが検知されて運転席で警報が鳴動するとか、何らかの安全装置がなければならないはずなんですが、いろいろ調べてみても今のところヒントがほとんどないので詳しい情報を待ちたいところです。
と、カタいことを考えているうちに大行司駅を過ぎ、専用道区間の終端・宝珠山駅に到着しました。
県境(福岡県・大分県)上にプラットホームがある駅として知られていて今もそのホームは残っているらしいのですが、車窓から見ることはできませんでした。
ここから先は運行管理システムの支配から解き放たれ、一般道の路線バスと同様にノビノビと走ります。
国道211号線を南下し、久大本線の橋梁をくぐって左折するとすぐ夜明駅に到着。
列車は一段高いところを走っているので、バス車内から駅舎は見えません。もう少しすると鉄道駅の方にも日田行の列車が来て乗り換えできるのですが、私はこのままBRT日田駅まで乗ります。
久大本線に沿いながら光岡駅に着くと日田行列車に追いつかれ先発されてしまいました(汗
夜明-日田間の所要時間は列車が約10分に対して、市街を回って鉄道駅以外の駅にも停まるBRTは約28分。この区間に限れば列車18本、BRT12本と乗車機会は充実していますが、どちらも時隔が一定していないので、この「ひこぼし5号」のようにBRTが後発の列車に抜かれるという現象がちょこちょこ見られます。
列車がとっくに日田駅に着いた時刻になっても、こちらは信号で停められたりしながらちょっと遅れて到着。
夜空に輝くひこぼしが夜明けを経て日(田)の出を迎える、というところでしょうか。
駅舎自体は旧来のものですが、黒を基調にしたシックな外観に改装されていました。
久しぶりに降りた日田駅ですが、なかなか攻めてますね。
ちょうどお昼時なので日田駅近くで昼食後、列車で大分へ向かうことにします。