タシカニト
タブレット等の通票を使用する線区では、駅現場で「タシカ(ニ)ト」という安全確認のための符牒が使われていました。
タ・・・タブレット(通票)
シ・・・信号
カ・・・旅客(「客」を「カク」と読むことから)
ニ・・・荷物
ト・・・時計
を意味しており、駅長氏が列車との間で通票を授受してから信号、客の乗降、時刻等までの一連の確認動作を表しています。
かつて、あちこちの通票扱い駅でこの文字が見られたものです。
タブレット仮置場が設置されている駅では、タシカニトを仮置場そのものに(しかもかなり大きく)書いてあるのもよく見受けられましたが、一般の非鉄な人々の眼にはどのように映っていたことでしょうか。
まぁそれ以前に「タブレット仮置場って何??」の世界でしょうけど。
それにしても複数の確認動作をコンパクトにまとめ、かつ「確かに」との意味を持たせたところなど、当代のコピーライターも顔負けの秀逸さだと思います。
鉄道荷物(「貨物」ではなく小荷物・手荷物)の取り扱いが縮小の一途をたどってからは、ニは省略され「タシカト」となっているケースもよく見られました。
大湊線は票券閉そく式だったのでタブレットではなく「通票仮置場」となっていますが、通票でもタで表現しています。
「ツシカト」では言いにくいし、何より「確かに」という意味が薄れてしまいかねないからでしょうか。
この侍浜のものはニが残りトがない珍種かと一瞬思いましたが、右端の欄に書かれている「ト 時計」がほぼ消えてしまっているだけで、ちゃんとタシカニトなのでした。
もちろん広い日本ですから変種もあり、タシカフというのもありました。
置戸は駅の両側に踏切があったので、遮断機が下りたのを確認する必要もあったのでしょう。フは他にいくつかの駅で見たことがある気がします。
津ノ井の写真はかなり遠目からのしかもビデオキャプチャなので画質劣悪になってしまいました(汗
西日本方面では、タブレット仮置場を設置せず駅長氏が両手にキャリアを持って授受していた駅が多かったせいか、仮置場がない分タシカニトを見ることも少なかったように思います。
あと、シを「信号」と「進路」、トを「時機」としているのも特徴でしょうか。
一方、自動閉そく化で無人となった駅にはこのような遺物が残されていました。
これは言うなればタシシトフカでしょうか。
随分と欲張り…と言っては怒られますが、ここまで文字にしなくても、現場の駅長さんはこれだけのことを瞬時に確認して列車の安全かつ定時の運行のために心を砕いていたことがわかります。
「安全の誓い」というコトバに大事故が何度か発生しているJR西日本の安全への真摯な思いが込められているようです。
通票を使う閉そく方式が風前の灯となり、無人駅が多くを占めるようになった現在では、タシカニトを見る機会はほぼ絶滅してしまいました。