『運転保安設備の解説』2(票券閉そく式、通票式)

『運転保安設備の解説』1(通票閉そく式)のつづき)

今回は全開いや前回よりもずっと簡単です(笑
前回ご紹介した通票閉そく式は「閉そく作業→通票取り出し→通票収納→閉そく解除作業」という流れが1つの単位となっていて、列車を運行するたびごとにこの流れを繰り返します(例外あり)。この流れに乗れば、たとえばA駅→B駅の向きに複数の列車を続けて運行する(続行運転)ことも自由自在なので、朝夕ラッシュ時の片方向輸送などに柔軟に対応した自由度の高いダイヤ組成が可能となります。
しかしながら、そこまで列車密度が高くない路線(むしろ閑散系路線)では、閉そく器等の設備を整備してまで通票閉そく式を施行するメリットがなく、それよりお手軽な閉そく方式として「票券閉そく式」と「通票式」が使われていました。

さて、本書の票券閉そく式の項には原理原則についての記載があるだけで、具体的な取り扱いがよく分かりません。

票券閉そく式では1閉そく区間に通票が1個しか存在せず、同一方向へ続行運転を行う場合は「通券」という通票代わりの紙カードを使用します。通票は通票閉そく式と同じく第1〜4種があり、通券には当該種別(通票の穴の形)が赤で印刷されています。
通券箱の引手の凹みに通票を嵌めて押し込むと、通票に付けられた突起でフタが解錠され通券を取り出すことができます。通券箱の引手の凹みの内側には通票種別固有の出っ張りがあり、通票に刻まれた切り欠きに合致しないと(異なる種別だと)嵌め込むことができません。

通券箱と通券(by 通票よんかく

A駅からB駅へ向けて列車を出す場合、続行運転でなければA駅長からB駅長に対して列車を出す旨を鉄道電話で連絡し、「A・B間列車閉そく区間にあり」と書かれた札(閉そく票)を電話機の上に置きます。この時、唯一の通票がA駅からB駅へ行ってしまうので、A駅から続けて列車を出すことはできません。
票券閉そく式が真価を発揮するのは同一方向へ続行運転を行う場合です。たとえば、A駅からB駅へ2列車続けて出す時の手順は
(1) A駅長はB駅長に対して2列車続行の旨を連絡し、閉そく票を電話機の上に置き(閉そく)、通券箱に通票を挿入して通券を1枚取り出す。
(2) A駅長は取り出した通券に日付、列車番号などの必要事項を書き込み、1本目のB駅行列車に通票の現物を見せながら通券を渡して列車を発車させる。
(3) B駅に列車が到着するとB駅長からA駅長へ列車到着の旨を連絡し、通券に×印を付けて無効化するとともに閉そく票を裏返して「A・B間列車閉そく区間になし」の表示とする(閉そく解除)。
(4) A駅から2本目の列車を出す際には、B駅長に対して列車を出す旨を連絡して閉そく票を表に返し、通票を渡して発車させる(3本以上の続行運転の場合も同様に、最後の列車が通票を携帯する)。
【よんかく補足】
●通券箱には常時複数枚の通券が収められていますが、手順(1)では取り出す通券を1枚に限定する仕組みがない(一度に何枚でも取り出せる)ため、「唯一無二性」が必ずしも担保できないという欠点があります。
◼️手順(2)で「通票の現物を見せながら」通券を渡すのは、A駅は通券を発行する(列車を発車させる)資格があることを駅長と運転士の双方で確認するためです。
▼第3種通票の穴の形が▼となっているのは、通票は切り欠き側を奥にして引手に嵌め込むため、嵌め込んだ時に正位置の▲となるようにしているからです。

なお、本文に「列車の行違い変更等が生じた場合は、通票の陸送といった不便もあり」とありますが、どちらの駅からも列車を出すことができる通票閉そく式と違って、通票を持つ側の駅からしか列車が出せない票券閉そく式はアクシデント発生時の運転整理が困難です。
この「通票の陸送」については、鉄道技術書界の古典『機関車工學 下巻』(森彦三・松野千勝、大倉書店、1932)に詳述されているので、少し引用します。
「・・・この変更計画を定めたる後に甲駅より乙駅に至るべき相当列車ありて、通票を乙駅に移さざる限りは甲駅より乙駅に人を馳せて通票を送付せざるべからず。これを通票陸送と称す。通票を陸送するには多くは速達を要す。故に駅員を「トロリー」に乗せて運搬することあり。または普通の街道に人力車を利用することあれども、多くは線路内を疾走せしむ。
しかも風雨降雪の夜において、橋梁を渡り隧道を過ぎ勾配を上りて使命を全ふするがごときは、多くの時間を要するものなれば(両駅より人を派して途中にて通票を受授することあり)、通票陸送を命令するものはよく停車場間の距離難易等に応じ、使者の到達する時分を顧みてこれを実行せざるべからず。しからざれば通票到着の機を失して、ますます列車をびん乱せしむることあるべし。」

文語体ということもあり、通票陸送の実態や困難さ、緊張感がひしひしと伝わってきます。現代なら陸送は自動車で行うのでしょうが「普通の街道に人力車を利用することあれども、多くは線路内を疾走せしむ」あたりはあまりに大時代過ぎて涙が出そうです(笑) 文中「トロリー」は保線作業などに使用される、車輪が絶縁された自走トロッコのことでしょう。
ちなみに通票閉そく式に関しては、
「「タブレット」式単線用閉塞器を使用する区間においては、甲乙両駅間にて規定の電流を交換すれば、いずれの駅よりも「タブレット」を取出し得るをもって、便宜の駅より何時にても列車を出発せしむることを得。列車行違変更にははなはだ便利なり。」
と、盛大に褒め称えています(笑
この当時、通票閉そく式は単線区間における列車保安装置のエースでした。
 

続いては、さらに簡易な方式「通票式」です。「通票式」は国鉄時代の名称で、通票閉そく式と紛らわしかったせいか国鉄→JR移行の際に通票式は「スタフ閉そく式」、通票閉そく式は「タブレット閉そく式」と改称されました。(で、この「スタフ」とは?

これはもう、まさに書いてあるとおりですな(笑
要は1編成が行ったり来たりのピストン運転しかできない方式で、基本的に1日数往復レベルの末端路線で使われます。そのかわり通票1個さえあれば閉そく器も通券箱もいらず、通票授受に携わる運転取り扱い人員も上図の甲駅に配置するだけでOKと、コスパ的には最も優れているものの運転の自由度は最低です(汗
【よんかく補足】
●かつて高山本線猪谷駅から出ていた旧・神岡鉄道(猪谷-奥飛騨温泉口)では神岡鉱山前駅を境に2閉そく区間連続でスタフ閉そく式を施行していました。しかも猪谷-神岡鉱山前間には貨物列車の設定があり、貨物・旅客あわせてのピストン運転となるため運転自由度が著しく低く、神岡鉱山前駅での列車交換は行われていませんでした。
◼️本文にあるように、通票式はかつては代用閉そく(非常時等の一時的な閉そく方式)を特認により常用化したものという扱いで、正式な閉そく方式として位置付けられたのは1965(昭和40)年でした。このため、1965年以前に開業した単線路線では、全線1閉そくでピストン運転のみであっても通票閉そく式または票券閉そく式が施行されていましたが、のちに閑散化・合理化のため通票式に切り替わった路線が多かったようです。

 
次回は、通票を用いない非自動閉そく方式である「連動閉そく式」と「連査閉そく式」です。