周って遊ぶ周遊券 3

「周って遊ぶ周遊券 2」のつづき)

今回はまず、周遊券制度の最重要パーツ「周遊指定地」について改めて見ていきたいと思います。

周遊指定地は一般周遊券販売のために国鉄が指定した観光地で、「交通公社の時刻表」の索引地図に薄緑色で明示されるとともに、時刻表の会社線ページでは周遊指定地に関係する駅や停留所が記号で判別できるように記載されていました。

国鉄監修・交通公社の時刻表1977年9月号。「前広」というコトバも最近見かけなくなりました

上の説明にもあるように、◯は周遊指定地駅、●は◯駅への接続駅で、周遊船車券(周遊指定地へ行くためのきっぷ)は●駅→◯駅、その先の◯駅→◯駅の区間で発売されました。
下の時刻表で見ると、たとえば●串本駅→◯海中公園や●串本港→◯大島港…◯大島桟橋→◯樫野灯台前はこの条件を満たすため周遊券に組み込めます。
ただし、ひとつの周遊指定地内の◯駅は何か所回っても周遊指定地としては1か所とカウントするため、一般周遊券発行の条件である「2か所以上の周遊指定地」をクリアするためには最低もう1か所違う周遊指定地内の◯駅を訪れる必要があります。

また、紀伊勝浦駅などの半分黒丸の記号は「準周遊指定地」で、国鉄駅に直結または至近距離にある観光地が該当します。原則として国鉄線以外の交通機関(民営の交通機関、国鉄バス、国鉄航路など)を利用しなければ行けない駅や停留所が周遊指定地駅として指定されているので、国鉄線だけで行ける準周遊指定地駅は「2か所以上」のうちにはカウントされません(でないと、周遊せず国鉄線に乗り回るだけで容易に2か所以上になってしまう)が、準周遊指定地駅から周遊指定地駅への交通機関(半黒駅→○駅)のきっぷは1か所としてカウントされ、割引が適用されます。ややこしいですが、半黒駅と●駅との違いは「その駅が観光地直結かどうか」という違いと考えればよいかと思います。
下の時刻表で言うと、たとえば熊野交通バスの半黒・紀伊勝浦駅→●志古だけでは周遊船車券とはなりませんが、ウォータージェット船を加えて半黒・紀伊勝浦駅→●志古→◯上瀞とすれば紀伊勝浦→上瀞の全区間を周遊船車券として割引運賃で周遊券に組み込むことができます。

一番下に掲載されている定期観光バスには「遊」の字を◯で囲んだ記号が付いていますが、この記号のあるバス路線や遊覧船はそれ自体が1か所の周遊指定地としてカウントされ1割引になります。
余談ですが、写真中央右側にある国鉄バス阪本線(五条駅-城戸(じょうど)間)は、工事中断により未成線となった「国鉄五新線」の路盤の一部をバス専用道に改装して運行されていた路線です。福島県のジェイアールバス関東・白棚線(はくほうせん…元・国鉄白棚線の廃止線路敷をバス専用道化)とともに、現在のBRT(バス高速輸送システム)の先駆けとも言えるバス路線でした。

さて、ワイド・ミニ周遊券の最大限活用に心血を注いできた乗り鉄派や完乗派としては、本州内のワイド・ミニ自由周遊区間や往復経路に含まれない路線に乗るために、実際には行かない「掛け捨て周遊指定地」を2か所組み込んだ一般周遊券を使うという裏ワザがありました。この時刻表時点では運賃1割引だったのが、のち国鉄線に限り2割引(学割は3割引)に拡大されたのも大きかったですね。
そして、掛け捨て指定地として有名だったのが東海道本線醒ヶ井駅-養鱒場間の近江バス(1977年時点の運賃100円)で、制度系さんのサイトによると北海道のJTB支店にもこの区間の常備券が置いてあったとのことなので、乗り鉄派には相当浸透していたのでしょう。
ちなみにダシに使われた醒井養鱒場は滋賀県東部の一大観光スポットとして盛業中です(ただし件のバスは廃止)。

それでは、山陰・山陽・四国地方のワイド・ミニ・ルート周遊券を見ていきましょう。
索引地図では淡路島が薄緑色でベタ塗りされていて、おそらく最も面積の広い周遊指定地と思われます。

まずは「山陰ワイド」。山陰と言いながら京都府の西舞鶴駅までカバーする広範囲な自由周遊区間です。
三江線(廃止)三次-浜原間は1975年8月の開通ですが、1977年時点でも山陰ワイドの自由周遊区間から外れているのは区間追加の手続きが追いつかなかったからでしょうか。三江線についてはいつの時点からか全線が自由周遊区間に加えられました。
「津山・みまさかミニ」は周遊指定地「美作三湯・蒜山高原」を含み、湯郷温泉(最寄りは林野駅)、奥津温泉(津山駅)、湯原温泉・蒜山(中国勝山駅)をめぐるのに好適なきっぷでした。「鳥取・三朝ミニ」についてはこちらを。
ルート周遊券は3種類とサブルートが1つ。「606 出雲路」は一畑電車全線完乗ツールとしても使えたようです。

山陽地方はミニ周遊券が4種類。「山口・秋芳洞ミニ」の自由周遊区間はワイドに格上げしても良さそうな充実ぶりで、しかもこの当時は急行列車がたくさん走っていたのでとても使い勝手の良いきっぷでした。人気路線と思われる小郡(現・新山口駅)-秋芳洞間の直通バスが対象外となっていますが、この区間は防長交通のドル箱路線でもあり、民業圧迫を避けての措置かなと思います。

ルート周遊券は4種類、うち3種類は船舶利用のコースです。「801 瀬戸内海」の(STSライン)とは当時の瀬戸内海汽船が運行していた定期観光船で、宮島から音戸瀬戸を経由して大三島と瀬戸田を水中翼船でめぐるというものでした。◯遊マーク付きなので周遊指定地にも算入できます。
ちなみにSTSとは「(S)素敵な(T)旅(S)瀬戸内海」の意だそうで、なかなか昭和なネーミングですな。

時刻欄には水中翼船、高速船、フェリーの記号があり、速度順で言うと水中翼船>高速船>フェリーとなります。水中翼船とは船腹下部に「水中翼」を取り付けて水の上を滑るように走る構造の高速船ですが、現在はジェットフォイルなどに取って代わられてしまったようです。

四国地方も「四国ワイド」の存在感が大きいためかミニは3種類だけ。
「松山・高知ミニ」は松山と高知をつなぐのが鉄道ではなく国鉄バス(松山高知急行線)という、ほとんどバス周遊券です。現在松山-高知間を結ぶ「なんごくエクスプレス」は松山自動車道-川之江JCT-高知自動車道を経由する高速バスとなり、「松山・高知ミニ」の自由周遊区間に示された松山高知急行線の大半は廃止されてしまいました。

なお、ワイドは片道に限り関西汽船の大阪or神戸-高松航路が利用でき、坂手港または土庄(とのしょう)港で途中下船して小豆島観光も可能でした。大阪の弁天埠頭を出て神戸の中突堤に寄港する便で、中突堤は今もクルーズ船の発着がありますが弁天埠頭は南港フェリーターミナルなどへ機能移転してからは船の発着はなく、ただ旅客ターミナル跡の荒れ果てた建物が残るのみとなっています。

四国ワイド三揃い B券の途中下車印の押してある場所がなかなか的確です

四国内のルート周遊券5コース中4コースに高知県が、3コースに松山・道後が関わっており、四国旅行のゴールデンルートを効率よく回る設定となっています。徳島県がんばれよ

またここにも謎の「駅レンタカールート周遊券」が出現します。「781 782 琴平」のレンタカー乗降駅が高松↔︎高知となっているのは、たとえば高松駅でクルマを借りて琴平を回って高知駅で乗り捨てるということなのでしょうか。
そうすると、当時の四国内には高速道路がほとんどありませんから、「783 784 高知」は高松-高知-松山間の約300キロを一般道だけで走り抜かなければならない過酷なきっぷということになり、価格も四国ワイドの倍以上するので、これならフェリーで自分のクルマを持ち込んでドライブする方がよくない?とさえ思ってしまいます。
以前にも言いましたが、駅レンタカールート周遊券は現在の「レール&レンタカーきっぷ」に相当し、決められたルートを丁寧に案内する本来のルート周遊券とはかなり性質を異にしていたものと思われます。

九州地方にまいります。

「九州ワイド」にも片道関西汽船利用のオプションがあり、さらに片道航空機利用の「九州立体ワイド」とあわせて陸海空の3ルート体制がとられていました(もう片道は鉄道必須)。立体ワイドの有効日数が一般のワイドから短縮されているのは「ヒコーキだから速く行けるだろう」との無言のプレッシャーでしょうか。
北海道と九州に設定されていた立体ワイドはのちに往復とも鉄道・船・航空機から自由に選べる「ニューワイド周遊券」に発展し、さらにはのちの「周遊きっぷ」につながっていくことになります。
豊肥本線以北をカバーする「九州北ワイド」も広範囲に乗れる使い勝手の良いきっぷでした。

高校生よんかくの青春の一枚

ミニ周遊券は3種類。「福岡・唐津ミニ」「長崎・佐世保ミニ」は九州北ワイドのシングルカットで、国鉄バスでしか行けなかった嬉野温泉によもや新幹線が来るとは、当時は全くの予想外だったことでしょう。「鹿児島・宮崎ミニ」の自由周遊区間は国鉄線・国鉄バスともに充実していてワイド周遊券にしても良いぐらいのボリュームです。
ルート周遊券は立体版を除けば3種類で、雲仙、阿蘇、霧島などいずれも火山と温泉が関係しています。九州は新婚旅行先としても人気があったので、自分で「ことぶき周遊券」を組む代わりにこれらのルート周遊券を使う新婚カップルも多かったのではないでしょうか。逆にことぶき周遊券を組んだり九州ワイドを使うカップルは相当な高鉄分と思われ
駅レンタカールート周遊券については特にコメントいたしません(爆
各周遊券の路線図から消えてしまった線、国鉄・JRではなくなった線、BRT化された線、そして廃止ではないけれど復旧の見通しが立たない線など、さまざまあるのは九州に限らず全国的な傾向ですね。

以上周遊券の諸相について見てきましたが、次回はその他の周遊券の話題や後進の「周遊きっぷ」について、そしてよんかくが周遊券を使ってどんな旅をしてきたのかもちょっと加えつつ落穂拾い的に周遊して、シリーズの〆にしたいと思います。