トワイライトエクスプレス

私の新婚時代のことです。

妻が北海道へ行ったことがないというので1週間ほど行ってみようかということになり…と言うと愛妻家のように聞こえますが、水面下では「北海道ペアきっぷ」を利用して非鉄一般人である妻を鉄旅に引きずり込もうという恐ろしい計画が進行していたのです。

とはいうものの往復経路は飛行機でと考えていたのですが、妻は非鉄のくせにトワイライトエクスプレスの名を中途半端に知っていて、乗ってみたいわぁなどと言われると流石に検討せざるを得なくなりました。
いえ、私も内心は嬉しかったんですけど(笑

知り合いの日●旅行営業のA氏に往路のスイートかロイヤルかツインでと頼みましたが、名だたるプラチナチケットゆえ発売日10時にマルスを叩いても一瞬で全席売り切れていたとのこと。
落胆しながらもダメモトで復路札幌発のスイートに絞って再度頼んだところ、発売日の10時過ぎにA氏から電話で
「ととととと取れた取れました、スイートっ!」
営業マンがそないパニクってどないすんねんと思った私もパニクっていました。

ともあれ、関西線・環状線などの運転士からJR移行とともに転職した苦労人のA氏の実直な仕事ぶりが奇跡を呼んでくれたんやと大いに感謝し、その旅行のきっぷや宿の手配などもすべて彼にお願いしました。

旅行そのものは往路飛行機で函館入りし、その夜に札幌へ出て夜行「おおぞら」B寝台で釧路・根室へ、その翌日はノロッコ号で湿原へ…という調子で稚内にも足を伸ばし、妻はともかく私は大いに満足のいく鉄旅に仕上がりました。

いよいよトワイライトエクスプレス8002レが入線。
札幌1409発→大阪1242着の長い旅路です。

やはり重連はいいですね。

ただ、大阪行の1号車は海峡線区間を除き先頭車となるので、ほとんど機関車のご尊顔を拝みながらの旅となります。

森駅に差し掛かるあたりで夕食の予約時刻となったのでダイナープレヤデスを訪れます。
席に着くと食堂スタッフが写真を撮って、メニュー表に添えてくれました。
嬉しいサービスというより、面映くて仕方ありませんでした。

左側の男の風貌は今はすっかり別人です(汗

森からは砂原線に入ります。
お世辞にも線路状態が良いとは言えない区間をそこそこのスピードで走るので結構な揺れで、テーブルの上のワインボトルが右往左往し、食堂スタッフ氏もサービスに苦労されている様子でした。
その時は予約をあと30分遅くしたらよかったと思ったものの、今から思えば砂原線に揺られながらフランス料理に舌鼓を打つというシュールな経験を味わせてもらったことに逆に感謝しています(決して皮肉ではなく)

食事をしているとカレチ氏が食堂車の入り口で脱帽し、制帽を手にして通り抜けて行きます。
食堂車という存在そのものがほぼ消えかけている今となっては、このような鉄道人の伝統も記憶の彼方に霞んでしまいました。

ハート&アクションというフレーズが懐かしい

1840着の五稜郭でエンド交代し、青森までは1号車が最後尾となります。
青函トンネルを抜け、蟹田などで運転停車ののち2109青森着。
ここでふたたびカマのお顔とにらめっこです。

こんなところを撮影する夫が理解できないという顔の妻がすぐ横にいます

夜も更けてきたので室内のシャワーを浴び、少しだけ飲み直してから、022着運転停車の秋田あたりで就寝しました。
そこから富山あたりまで寝ていたはずなのですが、旅メモを見返すと「京ヶ瀬420着428発」の記載がありました(←本当に寝てたのか?

夜行列車から眺める朝の風景は本当に気持ちが良いものです。
80回ほど車中泊の経験がありますが、その思いはいつも変わりません。

敦賀で機関車の付け替えがありました。

湖西線や東海道線の見慣れた車窓風景を眺めながら、定時に大阪駅着。

人生最初で最後のトワイライトエクスプレスの旅が終わりました。
日本海縦貫線の線路さえJRでつながらなくなった今はもう叶わない鉄旅です。
この旅感というか鉄感というかスケールの大きさは、しょせん西日本管内を回るだけの瑞風や銀河では到底味わえないものでしょう。

こんな鉄男と一緒になったことを後悔している?妻とは、ことし銀婚式を迎えました。