『運転保安設備の解説』4(連査閉そく式)
(『運転保安設備の解説』3(連動閉そく式)のつづき)
今回はかなり長編です(汗
通票類(トークン)の取り扱いをなくすため鳴物入り?で導入された連動閉そく式でしたが、連続した軌道回路設置などの高額な設備投資が仇となってほとんど普及せず、通票閉そく式などのトークン方式の代替とはなり得ませんでした。
その後、連動閉そく式の考え方を継承しつつ設備を簡素化したローコストなトークンレス方式「連査閉そく式」(よく「連鎖」と誤記されますが)が開発され、1961(昭和36)年7月に両毛線小山-栃木間と総武本線千葉-佐倉間で運用が始まります。
連査閉そく式は連動閉そく式と同様、閉そく作業と信号現示との間に連鎖関係を持たせることによりトークンレス運転を行うというもので、連続した軌道回路を停車場前後の短小軌道回路に置き換えることで設置費用の大幅な縮減を実現しています。
なお、本書の引用に際して、前回の例により図を入れ替えましたので、文中「…図1-13に示すように…」は「…図1-11に…」に、図1-11の「連動閉そく式」は「連査閉そく式」に読み替えてください。

下の図1-14のように、停車場の場内信号機建植位置を挟んで外方にOT、内方にCTの2種類の短小軌道回路が隣接して設置されています。列車がCT→OTの順に踏めば(車輪で短絡すれば)列車が閉そく区間内に進入したこと、OT→CTの順に踏めば閉そく区間外に出たことを検知する「チェックイン・チェックアウト方式」を採用しています。

【OT(normally Opened Track circuit) 開電路式軌道回路】
普段は回路に電気が流れていない状態で継電器(リレー)OTRが落ちていますが、車輪で短絡すると回路が構成されて電磁石の作用でリレーが上がり、列車がOT上を通過したことが検知されます。
【CT(normally Closed Track circuit) 閉電路式軌道回路】
普段は回路が構成されてリレーCTRが上がっていますが、車輪で短絡すると回路が切断されてリレーが落ち、列車がCT上を通過したことが検知されます。
このように、逆の作用をするOTとCTを並べることによって、
・OTが故障のためリレーが上がらなくなると列車の発車または到着の検知ができなくなるため、閉そくの解除作業ができない状態(他の列車が入って来られない状態)が継続する。
・CTが故障のためリレーが常に落ちた状態となると出発信号機が赤の保留現示を継続し、列車が発車できないだけでなく次の閉そく作業ができなくなる。
という、フェールセーフ機能を併せ持った仕組みとなっています。

文中の「先引き」という手法は連動閉そく式でも使われており、例えば甲駅→乙駅と運転する場合、閉そく依頼を受けた側(乙駅)が先に閉そくてこを操作することにより、閉そく依頼する側(甲駅)が閉そくてこを操作できるようになるというもので、必ず両駅の合意のもと閉そくが行われるという仕組みです。ただ、この設計思想自体は通票閉そく式ですでに実践されているので、連動・連査特有のものではありません。
さて、この本では珍しくポンチ絵が出てきました(笑
連査閉そく式で使用される「連査閉そく器」の図で、通票閉そく器のように上り方・下り方の2台置きではなく、これ1台で両方向への閉そく作業を行うことができます。「閉そくてこ」は普段は中立(N)位置に合わせられており、表示盤上で列車の運転方向が右向きの場合はてこを右側(R)へ引き、左向きの場合は左側(L)へ引きます。
操作法は連動閉そく装置とほぼ同じで、乙駅で閉そくてこを列車を受ける側(R)に引く→甲駅で閉そくてこを列車を出す側(R)に引く→甲駅の乙方出発信号機(4R)を青に転換する→乙駅の甲方場内信号機を青に転換する(3R)、という流れです。

実際には上記(1)以降の操作に入る前に、甲・乙両駅長が次のように閉そく承認について打ち合わせます。
①甲駅長は乙駅に対する「送信押ボタン」を3回押下し(乙駅閉そく器の電鈴が鳴る)乙駅長を呼び出す。続いて乙駅長も甲駅に対する送信押ボタンを3回押下する。
②甲駅長から乙駅長へ電話で閉そくの承認を依頼する。甲「000列車閉そく」→乙「000列車閉そく承知」
③甲駅長は送信押ボタンを2回押下し、続いて乙駅長も2回押下する。
その後、上記(1)以降の操作に入ります。(1)で重要なのは送信押ボタンを長押しすることで、これにより閉そくてこの鎖錠が解除され、押されている間に乙駅長は閉そくてこをNからRに引きます。
(2)では逆に乙駅長が送信押ボタンを長押しし、その間に甲駅長も閉そくてこをNからRに引きます。
これで両駅の閉そくてこがR位置となって両駅間の閉そくが確保され、甲駅出発信号機(4R)と乙駅場内信号機(3R)を反位(青)に転換できるようになります。
そして、甲駅を発車した列車が4CTを踏むと4Rは赤の保留現示となり、閉そくが解除されない限り4Rの信号てこを定位に戻すことができなくなります。乙駅の3CTと3Rもまた同様です。

上記(5)で列車が甲駅を発車後は甲駅長は送信押しボタンを3回押下、これに対して乙駅長も送信押ボタンを3回押下したのち、電話で現発通告を行います。甲「000列車現発」→乙「000列車現発承知」
この現発通告は全ての非自動閉そく方式で欠かすことができない重要な作業です。
さて、上図でははっきりと描かれていない「閉そくてこ」には、中立(N)、右方(R)、左方(L)のほかB・D・X・Yというポジションがあります。(下図はよんかく作成)

閉そくてこをN→Rへ引く場合、レバーは一旦Y位置で止まり、ひと呼吸置いてRへと2段階で倒す仕組みとなっていました。逆にR→Nへ戻す時は一旦Dで止まってからNまで回します。反対側も同様にN→X→L、L→B→Nと2段階で回すことになります。
この「2段階引き」の意味がいろいろ調べてもよくわからなかったのですが、やや苦し紛れで以下のように推測してみました。
「乙駅の閉そくてこをN→Rへ転換するには①甲駅の閉そくてこがNであること、②甲駅の閉そく器の送信押しボタンが長押しされていること、③乙駅の甲方の出発信号機と場内信号機がともに定位(赤)であること、の3つの条件が必要だが、この3条件のうちのある条件を満たせばN→Yに転換でき、残りの条件を満たせばY→Rに転換できる」
つまり、条件①②は甲駅からの通信によるもの、条件③は乙駅の信号機の状況によるものなので、例えば甲駅の閉そく依頼によって①②を満たしていればYまで転換できても③の自駅の信号機が条件を満たしていなければYで止められてRへ転換できない、という仕組みなのかな?と思っています・・・全く自信がないので、ここは詳しい方のご教示を仰ぎたいところです。
連査閉そく器は連動閉そく器にはない表示盤を備え、閉そくの状況や列車の位置、信号現示などがひと目で分かる、閉そくに関してはオールインワンの優れた装置です。しかしながら、連査閉そく式も発車の可否判断においては出発信号機の現示が唯一の拠り所となるので、連動閉そく式と同じく信号機の見落としや誤認などが命取りとなる危険性をはらんでいました。
そして連査閉そく式登場翌年の1962年、通票閉そく式から切り替えたばかりの羽越本線でまたもや正面衝突事故が発生します。この事故については過去に当ブログでも取り上げていますが、連動閉そく式の室蘭本線衝突事故と同じ「列車行き違い駅の変更」というシチュエーションで起こったものです。
年代は違えど、トークンレス方式の下で相次いで「1閉そく区間1列車」の鉄則を破る事態が惹き起こされたわけで、特に羽越本線事故は重大事案として参議院運輸委員会でも取り上げられ、連査閉そく式は不名誉な形で世に知られることとなります。
なお、この委員会で質問に立った中村順造議員の発言内容が閉そくに関してやたら詳しく、ひょっとしてこの人も閉そくヲタなんかな?と少し親近感を覚えましたが、動労委員長などを歴任したバリバリの元・国鉄マンで、国鉄当局を追及する舌鋒の鋭さはまさに昔取った杵柄なんですね。
連査閉そく式は幹線系線区の自動閉そく化までの「つなぎ」として5か年で10,000キロに施工される計画でしたが、財務状況の悪化で人員削減・経営合理化を迫られた国鉄は一足飛びで自動閉そく化の方向へ舵を切り、同じ短小軌道回路によるチェックイン・チェックアウト方式の特殊自動閉そく式の開発によって、トークン方式駆逐のために登場したはずの連査閉そく式自身も駆逐の対象となっていきます。
そうして連査閉そく式は当初計画には程遠い約2,300キロをピークに急速に勢力を縮小、2018年3月の山田線自動閉そく化によってJR旅客線上から姿を消し、残るは信越本線貨物支線上沼垂信号場-焼島駅間のみとなりました。
トークンレス非自動閉そく方式が早々に鉄路の表舞台から去ってしまった今、わずかながらも通票閉そく式や票券閉そく式、スタフ閉そく式が残っているのはなんとも皮肉な現象です。
次回は、非自動閉そく方式における「併合閉そく」等々についてよもやまってみたいと思います。
【参考サイト・文献】
YouTube「連査閉そく式①「登場の背景」」(通過代用進行)
「閉塞装置」(LazyJack)
「鉄道ピクトリアル」
No.937(2017年10月号)【特集】通票閉そく式
No.1007(2023年1月号)【特集】閉そく・信号・標識
