列車の編成ご案内1977 〜九州4〜

「列車の編成ご案内1977」シリーズも最終盤に差し掛かってきたわけですが、実は肝心の時刻表の「列車の編成ご案内」ページ自体が前回の「かもめ」「みどり」で終わってしまったので、今回は時刻表本文を見ながらいろいろよもやまってみたいと思います。

まず、筑豊本線とその支線群を見ていきます。
筑前国と豊前国にまたがる筑豊地域は福岡県の中央部から大分県に接するように広がる旧・産炭地で、明治時代から昭和後期にかけて多数の炭鉱と本線筋とを結ぶ運炭路線が網の目のように張り巡らされました。筑豊の石炭産業が終焉を迎える1970年代中盤から次第に運炭路線の廃止が始まりますが、1977年時点では運炭路線をルーツとする国鉄路線がまだまだ多く運行されています。

運炭路線群の屋台骨だった筑豊本線は現在も若松－桂川間（一部区間を除く）が複線ですが、石炭輸送の最盛期は折尾－中間間が複々線、中間－筑前植木間が3線でした。3線区間は上下線の間に単線（中線）を挟む構造で、下り線は貨物列車と旅客列車の一部、中線は上下の旅客列車と貨物列車の一部、上り線は貨物列車専用だったそうです（→転轍器さんのサイト「筑豊本線　遠賀川橋梁の両岸」）。今も3線時代の名残で上下線の間隔が広く空いている区間があります。

1977年当時は若松－原田間を通しで運転する列車があり、最も列車本数の少ない桂川－原田間の上穂波、筑前内野、筑前山家の各駅でも列車交換が可能でした。今は3駅とも棒線駅となったため桂川－原田間での列車交換は不可能ですが、途中に閉そく信号機が上下7基ずつ設置され8つの閉そく区間に分けられているので、同一方向への続行運転は可能です。もっとも、現行のスジではほぼ無意味ではありますが・・・
さて、このページで目を引くのが新大阪－熊本間寝台特急「明星6」で、新大阪駅を佐世保行「あかつき3」と併結で出発し、門司駅で分割ののち折尾短絡線を通って筑豊本線に入り、原田駅で鹿児島本線に合流していました（上り「明星3」はこの逆）。右下欄外に「鹿児島本線から筑豊本線に直通する列車は貨物線（＝短絡線）を経由するため折尾駅には停車しません」とあるように当時は短絡線上に折尾駅ホームがなく、ホームが設置されたのは1988年3月のことです。

とにかく乱麻のごとく路線が絡み合っていた筑豊方面では複雑怪奇な運転区間の列車も多く、ここを見ただけではどんなルートを走るのか皆目見当のつかない列車があったりします。その反面、各分岐駅での接続がとてもよく考えられており、よんかくも筑豊各線の全線完乗にはあまり苦労した記憶がありません。筑豊方面はまさに熟練スジ屋さんの腕の見せ所だったのでしょう。

筑豊本線を走る急行は門司港－由布院間「はんだ」と直方－由布院間「日田」で、「はんだ」は伊田線を経由し伊田（現・田川伊田）駅でスイッチバックして日田彦山線に入るのに対して「日田」は小倉駅回りで日田彦山線入りという対照的なルートをとっています。
「はんだ」は7〜8号車の2連（土休日は4連）で、下りの日田→由布院間は「由布2」（6両編成）の大分方に併結され、上りは単独運転。「日田」は7〜10号車の4連で、日田－由布院間は下り「由布1」・上り「由布2」との併結となります。車両運用面では直方→（下り「日田」）→由布院→（上り「はんだ」）→門司港→（下り「はんだ」）→由布院→（上り「日田」）→直方と、由布院駅に1日2回顔を出す行路が組まれていました。
「はんだ」「日田」に充当されていた直方区（門カタ）のキハ66・67は2両1ユニットの転換クロスシート車で、筑豊方面の各線で普通から急行まで汎用的に使われた画期的な気動車です。とは言うものの定期の急行運用はこの両列車しかなく、多くは乗り得な普通・快速として走っていました。

日田彦山線と久大本線に目を転じると急行列車が賑やかで、いずれも由布院・天ヶ瀬発着の温泉観光列車ぽい風情です。門司港－天ヶ瀬・由布院間「あさぎり」はシンプルに日田彦山線城野－夜明間の全線を走破します。こちらで出てきた江津発「あきよし」は由布院駅まで行くと帰りが遅くなりすぎるからか天ヶ瀬駅で折り返していますが、天ヶ瀬も駅近にあるそこそこ有名な温泉地です。この当時は他に「まつかぜ」「さんべ」など、山陰と九州をリンクする列車が数本走っていました。
由布院1610発博多行の片道きりの「ひこさん」なる不思議な列車がありますが、これは由布院1605着の「あさぎり」編成がわずか5分の折り返しで化けたものです。この両列車には竹下区（門タケ）キハ28・58の3連（土休日は4連）が共通運用されていて、久大本線ダイヤを見ると博多601発天ヶ瀬行普通2631D→天ヶ瀬→（上り「あさぎり」）→門司港→（下り「あさぎり」）→由布院→（ひこさん）→博多、という行路が浮かび上がってきます。

一方、久大本線を全線走破する急行は博多－別府間「由布」と前回登場の長崎・佐世保－別府間「西九州」。「由布」は大分所（分オイ）のキハ28・58・65＋キロ28の6連で、日田－由布院間は「はんだ」「日田」併結の最大10連で走行していました。
今回登場の各線とも客車の普通列車が数本見受けられます。主に筑豊本線は若松機関区（門ワカ）、久大本線は分オイのオハ35やオハ47などの旧型客車が運用されていましたが、翌1978年には近郊形客車50系（いわゆるレッドトレイン）が門司港運転区（門モコ）へ大量に新製配置され、筑豊方面での旧型客車の淘汰が急速に進みました。一方で日田彦山線は気動車化が早かったためか、客車列車は1往復のみとなっていました。

つづいて熊本－大分間を結ぶ豊肥本線。こちらは久大本線ほどややこしくなく急行は「火の山」のみで、2往復は博多－熊本－別府間のロングランです。基本は「由布」と共通運用の分オイのキハ28・58・65＋キロ28の6連ですが、別府発上り2号は熊本駅で三角行を分割するためグリーン車付き4連×2編成が運用されました。別府・阿蘇・天草諸島ひいては雲仙方面への九州横断ゴールデンルートの一翼を担う列車として人気を博すとともに、豊肥本線・三角線に急行間合い運用のグリーン車付き普通列車が目立つのも観光需要の多さをうかがわせます。

九州編ラストは肥薩線と吉都線です。両線経由で熊本方面と宮崎駅を結ぶのは前々回に登場の特急「おおよど」と急行「えびの」。「えびの」には熊本区（熊クマ）と都城区（鹿ヤコ）のキハ28・58・65＋キロ28が共同運用され、3往復中1往復の博多発着は7連、2往復の熊本発着は5連（3〜7号車）での運転です。熊本発着に併結の「やたけ」は鹿児島所（鹿カコ）のキハ28×2連で「えびの」の宮崎方に1〜2号車として連結されていました。門司港－人吉・湯前間急行「くまがわ」には人吉区（熊ヒト）のキハ28・58系が充てられ、鹿児島本線上の都市圏を走行するため博多発着「えびの」同様7連の長編成で運転されています。

優等列車の連続停車の巻でも出てきた肥薩線人吉－吉松間（いわゆる矢岳越え）は大畑駅・真幸駅に通過不可能な配線のスイッチバックがあり折り返し停車が必須なのですが、「おおよど」が通過となっているのは両駅を運転停車という扱いにしているためで、もちろん折り返し停車はちゃんと行なっているので区間所要時間は急行とたいして変わりません。
驚くべきはその人吉－吉松間の普通列車がすべて客車列車である点で、気動車ならスイッチバックも容易なのになぜ・・・と思ってしまいますが、当時のこの区間には貨物列車に客車を1〜2両連結した貨客混合列車が多かったためで、貨車がない日はDD51が客車1両を牽く超強力編成もあったそうです。混合列車は九州南部の各線で1980年代初頭まで走っていたようです。

肥薩線・吉都線の交わる吉松駅は普通、急行、特急、貨物とあらゆる種類の列車が往来する山間の要衝駅で、かつてはD51など多数の蒸気機関車を擁する吉松機関区が置かれていました。
吉都線にも数本の客車列車が見られるので、こちらにも混合列車があったのかも知れません。

また「おおよど」を蒸し返しますが、博多駅から宮崎方面へは所要時間の面で「にちりん」などより「おおよど」が意外と健闘していました。博多－宮崎・都城間の所要時間をほぼ同時間帯で日豊本線経由・西鹿児島駅経由・「おおよど」の3者で比較すると、

　博多739（にちりん2）1414宮崎【6h35m】1434（錦江3）1539都城【8h00m】
　博多800（有明2）1253西鹿児島1345（にちりん8）1513都城【7h13m】－1610宮崎【8h10m】
　博多823（おおよど）1337都城【5h14m】－1427宮崎【6h04m】

　都城1513【7h33m】（にちりん8）宮崎1610【6h36m】－2246博多
　宮崎1434【7h46m】（錦江3）都城1540【6h40m】－1703西鹿児島1707（有明10）2220博多
　宮崎1642【6h08m】－都城1737【5h13m】（おおよど）2250博多
　
なんと「にちりん」間合い運用のはずの「おおよど」が矢岳越えのハンディにもめげず一人勝ち状態で、とくに博多－都城間など他の2ルートと全く勝負になっていません。鹿児島本線を高速走行できることと乗り換え不要という点が大きいのですが、そのような利点があまり知られていなかったのか利用はあまり伸びなかったようで「にちりん」の完全電車化とともにあえなく廃止され、急行「えびの」が全列車博多延長でその跡を継ぐことになりました。
　

これにて「列車の編成ご案内1977」完結でございます。
最後にこのシリーズを続けるにあたって参考とさせていただいたサイトなどを、感謝の意とともにご紹介して〆とさせていただきます。

▶︎ARC列車編成資料館
▶︎国鉄・JR特急車両 配置および運用の移り変わり
▶︎神のホームページ
▶︎転轍器　古き良き時代の鉄道情景
▶︎昭和の記憶と復活蒸機
▶︎LazyJack
▶︎懐かしい駅の風景～線路配線図とともに

▶︎鉄道ピクトリアル

▶︎国鉄監修　交通公社の時刻表　1977年9月号