周って遊ぶ周遊券
青春18きっぷの仕様変更に非難の声や悲鳴が飛び交う昨今、往年のワイド・ミニ周遊券(均一周遊券)を懐かしんでしまう年輩の乗り鉄派は多いのではないでしょうか。
均一周遊券は決められた区域内の国鉄・JR線などが乗り放題となる、今で言うとJR各社が発売している往復フリータイプの何とかパス的なトクトクきっぷの前身みたいなもので、よんかくも若い頃は大変お世話になったものです。
そしてこのブログでもワイド周遊券、ミニ周遊券といった周遊券ネタをポツポツと書いてきたわけですが、今回はワイド・ミニだけでない周遊券の全体像について少しよもやまってみたいと思います。
さて、よんかくが所蔵する2番目に古い時刻表「国鉄監修 交通公社の時刻表」1977年9月号の営業案内ページで、まずは周遊券の種類から見ていくことにしましょう。
最初にワイド周遊券とミニ周遊券。単に「周遊券」と言うと大抵はこの2つを指すくらいに、周遊券の中でも飛び抜けた認知度を誇っていました。説明書きを拡大してみます。
ワイド・ミニは、発駅から乗り降り自由な地域(自由周遊区間)内までの往路きっぷであるA券、自由周遊区間内乗り放題と発駅までの復路きっぷを兼ねたB券の2枚1組となっていて、往路・自由周遊区間内・復路問わず急行列車自由席も利用可です。特急列車がまだ「特別な」列車だった時代、今でいう地方交通線も含めて全国網の目のように走っていた急行列車は鉄道旅行者の強い味方で、ワイド・ミニは乗り鉄にとってもウハウハの超トクトクきっぷだったのです。
のち、特急への格上げなどによって急行列車が激減したため、自由周遊区間内に限り特急列車の自由席にも乗車可能となりました(それでも往復経路は急行縛りのまま)。
ワイド・ミニの往路・復路は鉄道利用が原則ですが、北海道ワイドと九州ワイドについては片道航空機利用の「立体ワイド」と、九州ワイドには片道船バージョンもありました。しかし片道は鉄道を利用せざるを得ず、全国的な長距離列車の減少と相まってますます使いづらくなった立体ワイドは、後年には往復とも鉄道・航空・船から選択できる「ニューワイド」へと姿を変えていきます。
次は、あらかじめ決められたルートに従って旅行するルート周遊券。ルート上で利用する交通機関のきっぷが帯状に連刷されている長ーいきっぷです。乗り継ぎのたびに順番にミシン目でちぎって渡すので、旅程が進むにつれだんだんと痩せ細っていく哀れな周遊券でした。
コースを組む「旅の専門家」ていったい誰やねん?とも思いますが、組む人によってオーソドックスなコースになったりマニアックなコースになったりと、けっこうばらつきがあったのではないかと愚考します。
「サブルート」はルート周遊券のコースから枝分かれするオプショナルツアーみたいなもので、サブルート発駅を含むルート周遊券と同時購入することになっていました。ルート周遊券+サブルートは今のインバウンドなら喜んで利用しそうなアイテムですが、お仕着せのコースをたどるのが苦手なよんかくには耐えられない試練となりそうです(冷汗
最後は一般周遊券。というか、そもそも一般周遊券が最初にあって、そこからワイド・ミニやルートが派生していったわけですが…
国鉄が定めた周遊指定地(後述)を2か所以上回り、国鉄系交通機関を201キロ以上利用するなどの条件下でコースを自由に組んで運賃が1割引になるという、個性を活かした旅をしたい(マニアックでアクロバティックな旅をしたい)層にはうってつけのきっぷです。
この周遊券がすごいのは国鉄系以外の交通機関(いわゆる「会社線」)も運賃1割引で組み込むことができる点で、そのためもあって旅行会社の窓口のみで発売されていました。
下の「ことぶき周遊券」は一般周遊券の新婚旅行向けバージョンで、国鉄系を601キロ以上利用とハードルは上がりますが運賃は2割引、しかも「お見送り用入場券」が10枚付いてくるというものです。車内のハネムーンカップルに向かってたくさんの人がホーム上で万歳三唱しているのを古い映像で見たことがあるのですが、かつてはそういう文化があったのですね。暴走怒号撮り鉄と同レベルの迷惑度
このころは人気の新婚旅行先が国内から海外へと移り変わっていく時期でもあり、ことぶき周遊券がどのぐらい売れたのかは定かではありませんが、のちにグリーン車・A寝台車を201キロ以上利用すれば運賃のみならず特急料金やグリーン料金なども2割引となる「グリーン周遊券」へ進化したところを見ると、案外人気があったのかも知れません(グリーン周遊券は新婚でなくても利用可)。
さて、一般周遊券などに必須の「周遊指定地」もおそらく謎の「旅の専門家」氏が熟考に熟考を重ねて選定したであろう観光地で、時刻表の索引地図に薄緑色で図示されていました。
反面、当時の「周遊指定地」から外れていた場所には、たとえば北海道なら釧路湿原、網走&サロマ湖、道央の炭鉱遺産など現在は観光地として認識されているスポットも多いことから、時の流れにつれ観光地の整備が進むとともに「観光」のありよう自体も変化してきたことがわかります。
つづいてワイド・ミニ・ルートの諸相をご覧いただきます。まずは北海道から。
「北海道ワイド」は道内の国鉄線と国鉄バス全線が乗り放題で、夏に内地から渡道してくる鉄道旅行者の大半はコレ利用だったのではないでしょうか。
冬季にかかる10月1日から翌年5月31日までは2割引と記されていますが、周遊券は出発日の1か月前に発売となるので、5月31日に6月30日から有効の北海道ワイドを購入し夏真っ盛りの7月19日まで2割引で乗り回るという裏ワザもありました。
他に「道南ワイド」とその縮小版の「函館・大沼ミニ」。広い北海道にワイド・ミニがこれだけしかないのは不思議な気もしますが、裏を返せば「北海道ワイド」の一強状態だったということなのでしょう。
道内のルート周遊券は実質的には3種類で、無理なく効率よく有名観光地をめぐる無難なコース設定です。それに対して、ルート周遊券本体が定食だとしたらサブルートは居酒屋メニューみたいな感じで、どれもなかなか面白そうですね。
「東北ワイド」の自由周遊区間は3行の文でさらっと書かれているだけで即座にイメージしにくいのですが、図示されている「みなみ東北ワイド」以北と考えればわかりやすくなります。「会津線」は現在の会津鉄道の一部にあたります。
東北方面は国鉄バス路線が発達していて、「みなみ東北ワイド」や「青森・十和田ミニ」でもたくさんの路線が図示されていますが、それ以外にも地元の人専用のような本数僅少な路線や短小路線など、図示されていない路線であっても自由周遊区間内の路線であれば全て乗ることができました。
国鉄バスは路線の改廃がけっこう多かったようなので、国鉄・JR全線完乗をやる人は多くても「国鉄バス全線完乗者」はおそらく皆無ではないでしょうか。
東北では太平洋側・内陸部・日本海側とこまめにミニ周遊券が設定されている印象です。
「盛岡・陸中海岸ミニ」は鉄道よりバスが主体のような感がありますが、陸中海岸沿線である八戸線が経路や自由周遊区間として認められておらず、久慈駅に行くにはバスに乗るしかないという変わった周遊券でした。
ルート周遊券も各地の鉄板コースが並びますが、ちょっと面白いのが「302 能登・佐渡」で、最初に能登半島をひとめぐりして能登飯田(石川県珠洲市)から日本海観光フェリーで一気に佐渡島の両津へ向かうという壮大な?ルートです。なお、能登飯田-両津航路は昼間の1往復のみ、所要時間3時間20分というダイヤで、1981年に廃止となりました。
あと「駅レンタカールート周遊券」というのもありますが、これはどんなものなのかよくわかりません。
要はレンタカー乗降駅までの往復きっぷとレンタカー利用券がセットになったものでしょうが、「駅に着いたらクルマで勝手に周遊して来い」的なルート周遊券の役割を放棄したようなきっぷだったせいか、のちに「レール&レンタカーきっぷ」に取って代わられ廃止されたようです。
最後に、周遊券ではありませんが「エック」と「国鉄特選旅行」をば。
どちらも交通と宿泊などを組み合わせたパック旅行商品なんですが、国鉄は公共企業体のため旅行業を行うことができず、民間旅行会社に委託して間接的に旅行商品を販売する形をとっていました。「エック」はエコノミークーポンの略で文字どおりシンプルなパック旅行、「国鉄特選旅行」のほうはコースや宿などをグレードアップさせた高級プランだったようです。
次回はワイド・ミニ・ルート周遊券を、続きの関東地方から順に見ていきたいと思います。