めし駅弁

昔から「めし」は下品な男言葉の代表格みたいに語られてきました。
確かに女性は「めし食べよう」とはあまり言わないイメージで・・・「ジェンダーフリーに逆行」と言われるのを覚悟で書いてますが・・・ただ、この「めし」は「食べる」の尊敬語「めす(召す)」が名詞化したものという説が有力らしく、単なる俗語やおっさん語とは一線を画す、みやびなコトバだったようです。

そんなみやびな歴史が忘れ去られた現代においても、例外的に「めし」が幅を利かせるのが弁当や料理の名称で、その中にあって駅弁の世界では「峠の釜飯」やら「牛めし」など「めし」をネーミングした商品が数多くあります(ありました、の方が正確でしょうか)。

さてそこで今回は、主に西日本における「めし」駅弁を、よんかく駅弁包み紙コレクションからご覧いただきながらああやこうやと語ってみたいと思います。
なお、以下ご紹介する駅弁は全て現地で購入したものです。百貨店の駅弁大会で買って帰って家で食べても味気ないことこの上ない

【釜めし】
釜めしというと信越本線横川駅「峠の釜飯」(荻野屋)があまりにも有名ですが、他にも国内各所で採用されてきた駅弁形態でした。まぁもともとは米は釜で炊いていたわけですから全国に釜めしが分布していても何ら不思議ではないわけですが。

塩尻駅「信州風味 山菜釜めし」(カワカミ)
この「山菜釜めし」はすでになく、現在は「とり釜めし」になっているようです。
カワカミはほど近い松本駅でもイイダヤ軒と並んで駅弁を販売しており、松本駅にはその「とり釜めし」とイイダヤ軒「安曇野釜めし」の2種類の釜めしがあることになります。

 

糸魚川駅「えび釜めし」(たかせ)
北陸新幹線開業前に調製元の撤退によって失われた駅弁。大ぶりの殻付きえびが2匹ドンドンと乗っていました。現在の糸魚川駅にオリジナル駅弁はなく、キヨスクのコンビニ弁当しかないようです。

 

美濃太田駅「松茸の釜飯」(向龍館)
2019年の調製元廃業により美濃太田駅弁はなくなりました。ホームで立ち売りをされていたのがつい最近のことのようです。
松茸の薄切りが2〜3枚乗っていたと思いますが、当時でもこのお値段で松茸が食べられるのは相当な良コスパでした。

 

【かしわめし】
かしわめしに関してはかつてFBの個人ページでも記事を載せたことがあり、それの焼き直しみたいになってしまいますがご了承を。

折尾駅「かしわめし」(東筑軒)
もはや説明不要の超メジャー駅弁。今も経木の弁当箱入りで、折尾駅では立ち売りもされています。おかずの量や質によって何ランクかありますが、かしわ・玉子・海苔の3色構成は変わりません。

 

小倉駅「小倉のかしわ飯」(北九州駅弁当)
「小倉の」と付いているところは東筑軒に対するリスペクトでしょうか。
かしわ・玉子・海苔の3色は東筑軒と同じで、もちろん現在も「小倉かしわ飯」「無法松弁当」などを小倉駅限定で販売されているそうです。 <小倉駅新幹線コンコース売店では東筑軒も販売中

 
西都城駅「かしわめし」(せとやま弁当)
こちらは北九州方面のかしわめしとは全く趣が異なり、胸肉かササミの切り身を甘辛く炊いたものがかしわ風味のご飯の上に乗っています。
現在の西都城駅で駅売りは行われていないので、駅弁はいったん駅を出てすぐ横にあるせとやま弁当本店で買うことになります。駅弁というより地元の人々のソウルフード的存在だそうで、西都城駅前の本店でも複数個まとめ買いする人を数人見ました。

 
小郡駅(現・新山口駅)「かしわめし」(小郡駅弁当)
九州以外のかしわめしです。駅名が変わっても「小郡駅弁当」の社名は変えずにやってきましたが、ジェイアールサービスネット広島に吸収合併される形で閉業しました。
肝心の弁当内容は折尾駅「かしわめし」や「小倉のかしわ飯」と同様の3色構成なのですが、並びが玉子・かしわ・海苔の順となっているところがユニークでしょうか。細かいユニークさやな

 
【魚介系めし】
大分駅「じゃこめし」(梅乃家)

醤油で炊いたちりめんじゃこをまぶしたご飯の幕の内弁当。これは掛け紙ではなく、大きめの弁当箱の上に貼り付けてあった?ような気が。

 

播州赤穂駅「瀬戸のしゃこめし」(エノキ)
「じゃこめし」の次は「しゃこめし」です。舟型の容器に炊き込みご飯と、そのうえに茹でたシャコ数匹とエビなどが乗っていました。播州赤穂駅・相生駅の駅弁調製元だったエノキは古い業者でしたが2000年代初頭に廃業した模様で、今は両駅とも駅弁は売られていません。

 
宮島口駅「あなごめし」(うえの)
これも割と有名な、あなご味の炊き込みご飯の上にあなごの蒲焼の切り身がびっしりという、あなごだけで勝負の弁当です。現地訪問時にたまたま売っていたのが大正時代?の掛け紙に包まれた復刻版でした。
東京の博覧会や門司鉄道局の告知などレトロ感いっぱいですが、右上の「専売特許 すべらぬ琺瑯浪花鍋」って、昔の鍋はかまどやコンロの上でよく滑ったのでしょうか。

 
佐世保駅「南蛮あごめし」(松僖軒)
「あなごめし」の次は「あごめし」です。こんなんばっかりか
「あご」とはトビウオの九州北部での呼び名で、あごだしの炊き込みご飯の上にあごやらあさりやらが散らされています。あごはかなり小ぶりで、羽根(胸鰭)が付いているのかどうかもわからぬままパクッと食べてしまいました(汗) 

 
三原駅「珍弁たこめし」(浜吉)
流れが急な海峡部が多い瀬戸内海は身の締まったタコがよく獲れるところで、タコを使った名物料理も多くみられる地域です。この「珍弁たこめし」はタコだしの炊き込みご飯の上に煮たタコ足やエビなどがあしらわれた、見た目にもちょっと豪華な仕上がりの弁当です。もちろん今でも販売中。

 
姫路駅「旨い!たこめし」(まねき食品)
自ら「旨い!」と銘打つ商品はあんまり気が進まないのですが、まねきの駅弁とえきそばのファンなので買ってしまいました(笑)
タコだしの炊き込みご飯の上にタコ足の薄切りが数枚というオーソドックスさで、「旨い!」というよりシンプルで素朴な味わいです。このほかタコ系では神戸駅・三宮駅弁の淡路屋が膨大な「ひっぱりだこ飯」シリーズで気を吐いていたりします。

 
豊橋駅「うなぎ飯」(壺屋弁当部)
これもよんかく推し稲荷寿司の壺屋弁当部の作で、経木の箱に納められたいわゆる「うな重」です。現在はひつまぶし風の「うなぎまぶし」として売られているようです。
うなぎ系駅弁は浜松駅の自笑亭のものが充実していますね。

 
【その他めし】
高松駅「讃岐路牛めし」(四国観光弘業)

このパッケージの牛の夫婦(しかも肉牛でなくホルスタイン)はどうでもよくて、その上の船を見てください。この弁当の調製日が平成元(1989)年6月1日、船は平成3(1991)年3月まで運行されていた宇高連絡船です。すでにJRに移行していたのにまだJNRのまま(汗)ですが、喫水線より下が緑色なのは讃岐丸で、そこは芸の細かいところです。
瀬戸大橋開通後、この連絡船は吊り橋のカットに差し替えられたようです。

 

松山駅「醤油めし」(鈴木弁当店)
伊予ことば番付をあしらった掛け紙が洒落てます。「醤油めし」なるネーミングはたいへん地味に感じますが、弁当内容は醤油味の効いた炊き込みご飯に錦糸卵、炊き合わせのような和風おかずが詰め込まれた、見かけよりボリューミーな一品でした。
これ以外にもユニークな駅弁を作っていた鈴木弁当店は2018年に突然閉業したのですが、交流があったとされる岡山駅弁の三好野本店がレシピを譲り受けて製造し、現在の松山駅でも販売されているそうです。


宮崎駅「椎茸めし」(宮崎駅弁当)
知る人ぞ知る超ロングセラー「椎茸めし」。ぱっと見は折尾駅などの「かしわめし」に似たかしわそぼろと玉子のツートンカラーで、その境目の部分に甘辛く炊いた椎茸の切り身が数枚乗っているという非常に素朴な内容ながら、椎茸の味付けがとてもしっかりしています。現在も宮崎駅弁売り上げナンバーワンとのこと。
椎茸メインの駅弁って非常に珍しくて派手さはないんですけど、地味でも永きにわたり人気を保っていることはおおいに賞賛に値すると思います。

 
そろそろ「めし駅弁」食べ飽きてきてませんか 笑
もう少しですので頑張ってください ←何を?

都城駅「牛めし」(みづま本店)
牛肉の返礼品でふるさと納税全国トップに躍り出た肉用牛の一大産地・都城市、もちろん牛肉の弁当もありました。肉風味の炊き込みご飯の上に薄切り肉が数枚敷き詰められるという、肉系駅弁にはよくあるパターンのもの。
調製元のみづま本店は2000年代初頭に撤退。隣駅・西都城駅弁のせとやま弁当が後を引き継ぎ、今は「かしわめし」と並んで「盆地の牛めし」を販売中とのことです。

 
西都城駅「ゆかりめし」(せとやま弁当)
「ゆかり」とは紫しそを熟成・乾燥させたふりかけのことで、開発者の三島食品(広島市)の登録商標ともなっているそうです。「紫」という字は「ゆかり」とも読むんですね。
弁当内容は、ゆかりを混ぜ込んだご飯をコンビニのおにぎりのように海苔で包み込んだもの2個に定番的おかずを添えた幕の内です。「かしわめし」と並ぶせとやま弁当の代表商品でもあります。

 
今回の〆はこれを。

人吉駅「栗めし」(人吉駅弁やまぐち)
栗型のプラスチック容器に炊き込みご飯と栗の剥き身が数個、若干のおかずという構成。包み紙の図柄にインパクトがあり、鉄ちゃん対象の早押しクイズがあれば1/100秒差で勝負が決しそうな名物駅弁です。

2020年7月豪雨被害により、現在の人吉(人吉温泉)駅は「列車の来ない駅」となっています。
以来、駅前の調製元店舗と熊本駅で「栗めし」と「鮎ずし」を販売されているそうですが、2025年度内にくま川鉄道が全線運転再開の見込みである一方、JR肥薩線は復旧の目処が立っていません。
もちろん駅あっての駅弁ではあるのですが、ここは純粋に「駅弁という弁当」として熊本駅で、そしてもちろん人吉駅での駅売りも待ち望みながら、注目していきたいと思っています。よんかく近々九州方面へ行く…かも?

次回は東日本の「めし駅弁」・・・と行きたいところですが、東日本の駅弁包み紙を綴じ込んだファイルが物入れの中で行方不明になってしまっていてサルベージにちょっと時間がかかりますので、どうぞ気長にお待ちくださいませ。←ええかげん物入れの断捨離せえよ