夏だ!ビーチだ!海水浴臨だ!〜かっぱの逆襲〜
最終回の今回は北海道、東北中部・北部の海水浴臨を見ていきます。
まず、時刻表1978年8月号の北海道ページに海水浴臨は載っていませんでした。←それだけかいっ!
気温・水温などの関係で海水浴ができる地域が限定されるのに加え、夏の北海道はただでさえ旅行者が多く、ましてや北海道ワイド周遊券があった頃は夜行列車でも大混雑となるありさまだったので、一般的な観光目的の臨時列車が数多く運転され、それらの臨時列車が同時に海水浴需要にも応えていたものと推察されます。
よんかくが見た中で、道内で明確に海水浴臨を謳っていたのは後にも先にもこれだけです。
道内時刻表1985年8月号から抜粋
定期スジそのままで、普段は気動車単行か2連ぐらいの短編成のところ、長編成の客車(14系か出来立てホヤホヤの50系?)を投入して海水浴臨として運転していたものと思われます。ダイヤが臨時ではなく車両が臨時なんですね。
他に時刻表に掲載されていない海水浴臨がいくつかあったようで、この1985年8月渡道の折、札幌駅に貼り紙のあった「海水浴は冷房付き列車で!蘭島行臨時快速」は、全国版はおろか道内時刻表にも載っていない14系客車使用の豪華な快速列車でした。
続いては東北方面の臨時列車へ。
八戸線と久慈線(現・三陸鉄道北リアス線の一部)を走っていた「くろさき」「たねさし」。海水浴輸送に特化した列車ではないようですが、八戸線の夏の風物詩と言えるぐらい毎シーズン運転されていました。
八戸発普代行「くろさき」は普代駅からバスで約20分、高さ200mの断崖で有名な黒崎から採った名称で、久慈線内だけの「ミニくろさき」も地味に健闘しています。また、盛岡発種市行「たねさし」は種差海岸の広がる種差駅(現・種差海岸駅)へのアプローチ列車です。「種市行たねさし」てややこしくないかい
赤い点や×印の書き込みが何なのかお分かりの方は相当な閉そく愛好家です
さてさて、次は羽越本線のダイヤをご覧ください。
羽越本線沿線は日本有数の海水浴場密集地帯なので海水浴臨も多く設定され、山形発奥羽線・陸羽西線経由象潟行臨時急行「きさかたかっぱ」もそのひとつです。また、秋田駅方に見える道川発臨時「かっぱ1号」も、海水浴場に近い道川駅や下浜駅へのアクセス列車です。
さらにページをめくると今度は「ねずがせきかっぱ」と「かっぱ2号」。さらに米坂線にも「かっぱを併結」という注記があります。かっぱ・・・?
羽越本線上りダイヤには帰りの「きさかたかっぱ」と「かっぱ」。下段の長井線(現・山形鉄道フラワー長井線)にも、押しつぶされそうになりながらも自己主張する「かっぱ」が。
「かっぱ」に関しては時刻の横や欄外に運転日や運転区間についてたくさんの注記が掲載されていますが、ちょっと読んだだけでは何が何やらさっぱりわからないところも「かっぱ」の妖力でしょうか。
しからば「きさかたかっぱ」「ねずがせきかっぱ」の発駅を擁する奥羽本線へ。
上ノ山駅(現・かみのやま温泉駅)637発「ねずがせきかっぱ」は山形駅で定期急行秋田行「こまくさ」・鼠ヶ関行「月山1」と併結、新庄駅で「こまくさ」と分割したのちは「月山1」&「ねずがせきかっぱ」のペアで鼠ヶ関駅へと向かっています。
不思議なのは、7月27日〜8月3日の山形発は「ねずがせきかっぱ」単独で走行する区間がなく、実質的に「月山1」の車両増結に過ぎないという点です。それでも「ねずがせきかっぱ」は列車名だけで母屋の「月山1」を喰ってしまいそうなインパクトがあります。
まぁ普通列車はいざ知らず、少なくとも急行列車ではカレチ氏が「この列車は急行ねずがせきかっぱ号です…」と真面目に車内放送していたのでしょうね、きっと。
さらに、7月23日発の「きさかたかっぱ」は左沢線にまで手を出しています。425発って乗る人おるんか?
そして、少し離れた五能線にも「かっぱ」と全然快速でない「快速かっぱ」が・・・
他地方では「ビーチ」だの「ちどり」だの「くじら」だのと浮かれている一方で、東北方面日本海側の海水浴臨は完全に「かっぱ」の支配下に置かれてしまったようです。
まさしく「かっぱの逆襲」! これも見出し詐欺っぽいな
かくのごとく時刻表だけでは「かっぱ」の全貌が分かりにくいので図にまとめてみました。
東北地方の河童伝説というと「遠野物語」を連想しますが、遠野を含めた太平洋側にかっぱ列車がなく、日本海側でかっぱが大増殖しているのもいささか不思議ではあります。特に米坂線、長井線あたりはかっぱかっぱでアタマが痛くなりそうです。←某回転寿司チェーンの方すみません(汗
それと、なぜ海水浴臨に「かっぱ」なんでしょうか。本来「河童」は河川や淡水域に住んでいて、いくら泳ぎが得意でも海では生きていけないモノだと思っていたのですが・・・
それでもまぁ「かっぱ」が水や水泳のイメージキャラとして広く認知されているのは事実ですし、水辺環境保全運動にもかっぱが活躍しているとの論文もあるぐらいなので、海水浴臨のシンボルとしてもうってつけな存在だったのでしょう。川だろうが海だろうが運賃収入が上がればそれでいいのさ
海水浴が国民的レジャーのひとつとして君臨していた頃、膨大な海水浴客の輸送には鉄道の特性が遺憾なく発揮され、鉄道趣味的にもバラエティに富む海水浴臨に彩られた時刻表を見る楽しみがありました。
現在も海水浴臨がゼロになったわけではありませんし、牟岐線田井ノ浜駅のような「海水浴臨時駅」も健在ではあるのですが、海水浴の足がほとんどクルマとなってしまった今、さまざまな工夫を凝らして定期ダイヤに海水浴臨のスジを盛り込んでいったスジ屋さんや運転・営業現場の人々のご苦労は昔語りとなった感があります。
海水浴臨もまた、鉄道が元気だった時代を映し出す鏡だったのかも知れません。