三岐鉄道博物館めぐり 〜軽便鉄道博物館〜

(2024年7月7日撮影)

三重県北部を走る三岐鉄道には2つの「博物館」があります。
ひとつは主力事業の貨物輸送をテーマとした「貨物鉄道博物館」、もうひとつは2003年度から三岐鉄道の一員となったナローゲージ北勢線関連の「軽便鉄道博物館」です。
両博物館の開館日である第1日曜日(「軽便」は第3日曜日も)に、久々の三岐鉄道乗車を兼ねて見学に行ってきました。

自宅からクルマで約3時間、北勢線の終着・阿下喜(あげき)駅に到着。
北勢線は1915(大正4)年の開業から北勢鉄道→三重交通(三重電気鉄道)→近畿日本鉄道→三岐鉄道と事業者は変遷していますが、桑名市内の一部区間短縮を除き、西桑名駅から阿下喜駅までのルートはほぼ変わることなく現在に至っています。

軽便鉄道博物館は阿下喜駅構内と並行するような形で設置されています。
「軽便鉄道」とは普通鉄道に比べて低い線路規格や規模で建設された簡易な鉄道路線で、一般的にはJRなどの軌間1067ミリを下回る軌間(ナローゲージ)で敷設された鉄道を指します。ここもそうでした
現在、国内でナローゲージと呼ばれているのはこの北勢線と四日市あすなろう鉄道、黒部峡谷鉄道の3路線のみ(いずれも軌間762ミリ)となりました。

シンボル的存在のモニ226は北勢鉄道時代の1931年に落成、同じナローゲージの近鉄内部・八王子線(現・四日市あすなろう鉄道)を経て1983(昭和58)年に廃車・静態保存ののち阿下喜に戻ってきたものです。
「ニ」とあるように車内に荷物室を持ち、内外装とも北勢線とまち育みを考える会の皆さんの手によって復元されましたが、この日は屋根張替え作業のため足場が組まれていて車内見学はできませんでした。

外装は近鉄時代のアズキ色 屋根工事のためパンタが外されています

モニ226の前にはナローゲージよりもまだ狭い軌間のレールが敷かれ、その上をミニ北勢線が周回運転しています。
このミニ車両の黄・オレンジ塗色が三岐鉄道の基本色なのですが、後ろに停まっている車両はクリーム色と濃緑色ツートンの三重交通リバイバルカラーを纏っています。

後で乗ります

私はここでいったん阿下喜駅を離れて、員弁川(いなべがわ)を挟んで南側約2kmの距離にある三岐線伊勢治田駅まで歩き、三岐線(近鉄富田-西藤原間)乗車&貨物鉄道博物館訪問を済ませた後、近鉄富田駅から近鉄名古屋線で桑名駅へ出て北勢線で戻ってくる予定です。

JR・近鉄の桑名駅と北勢線西桑名駅は歴史的経緯から異なる駅名となっていますが、同一駅と言ってもよい位置関係にあります。ここに集う3路線とも軌間が異なるのが面白いところで、南側には国内唯一の3軌間が並ぶ踏切もあります。

この日は梅雨の中休みではありますが猛烈に暑く、水分を摂って汗を拭いても朦朧としそうな日差しが襲います。
そんな中列車の到着を待っていると、三岐鉄道沿線を含む三重県北部をホームタウンとするサッカークラブ・ヴィアティン三重のラッピング編成が入線してきました。

4両編成の場合、少なくとも1両は非冷房車が入っているようです

さっそく先頭車両から前面かぶりつきを・・・と乗り込むと駅員氏に「後ろの車両は冷房が入ってますよ」と声をかけられたので、一旦降りてドア上を見ると「非冷房車」の文字が。先頭車両に誰も乗ってこないのでおかしいなぁとは思っていたのですが、そういうことだったようです。
暑さには閉口していたのでいったん冷房車の方に行ったのですがあまり涼しさを感じず、先頭車両に戻ってかぶりつきに興じることとしました。

【動画】西桑名駅→馬道駅間 前望(途中省略あり)

北勢線は近鉄時代の1978(昭和53)年まで通票閉そく式で、島式ホーム駅での通票授受が便利なように各交換駅では(相対式ホーム駅も含め)右側通行となっていましたが、三岐鉄道移管後に全交換駅が左側通行化されています。

前望動画を撮ろうと構えていると急にスマホの本体温度が上がったような気がしたので、画面を見ると「高温注意」の表示が出て使用不能となっています。このせいで、東員-大泉間にある車庫への出入庫線分岐点・北大社(きたおおやしろ)信号場の前望動画を撮り損ねてしまいました。さすがは非冷房車です。

たいした写真も動画も撮れないまま阿下喜駅に到着し、スマホを冷却・回復させて軽便鉄道博物館へ。
建物の中にレールが乗り入れていて、ミニ車両の車庫にもなっているようです。

横には立派な腕木式信号機が立っています。腕木が短いので出発信号機として使われていたものでしょう。
鉄道系の博物館や記念館にはモニュメントとして腕木式信号機を設置しているところが多いのですが、あともう何世代か後になってくると、これが何であるか鉄道ファンですらわからなくなってしまう時が来るのかも知れません。

この信号機はJR名松線家城駅で使われていたのを譲り受けたものだそうで、J海もなかなか懐が広いというかいい会社ですな。←本心かい?

館内には北勢線関係のいろんな展示物が所狭しと並べられています。

こちらは腕木式信号機の「信号てこ」。
腕木式信号機とともに家城駅から持って来られたものですが保存状態が非常に良く、まるで現役のようです。

写真のようにてこが立っている状態の時は信号機は「停止」(定位)を現示し、てこを手前に倒すと腕木が下方に傾いて「進行」(反位)を現示します。
4本のてこのうち中の2本は場内信号機のもので、駅構内から場内信号機までは距離があっててこの操作が重くなってしまうので、倒しやすく戻しやすいようにウエイト(おもり)が取り付けられています。
また、論理的に矛盾する操作(下り場内信号と上り出発信号を同時に「進行」とするなど)ができないように、条件によって機械的あるいは電気的にロックをかけててこを倒せなくする(鎖錠)機構も付設されている、なかなかのスグレモノでした。

タブレットとキャリアは、実際に北勢線で使われていたものです。

こちらはきっぷに日付を印字するダッチングマシン、定期券用の駅名印と日付印。
北勢線は三岐鉄道移管後、全駅に自動券売機と自動改札機が導入され、2025年度からは交通系ICカードも使えるようになるそうですが、有人駅では今も硬券の入場券などが販売されています。

来館記念として、近鉄時代の行先標がパウチされたミニマグネットをいただきました。
北大社駅は車庫を併設した大きな駅でしたが、三岐鉄道移管後に新設の東員駅に統合されて廃止となり、前述のとおり現在は北大社信号場となっています。

展示物をひととおり見学した後はミニ北勢線に乗りましょう(笑
ナローゲージよりさらに狭いナローナローゲージなので、車両の中央部に線路方向に置かれているベンチに跨って乗車します。
それでは前望動画で出発進行!(動画ファイル容量制限のため4倍速で収録)

【4倍速動画】ミニ北勢線列車周回運転

閉館時刻が近づいてきたので博物館を辞することにします。
猛暑の中、運営にあたられているボランティアスタッフの皆様には本当に感謝しかありません。

なお、阿下喜駅から貨物鉄道博物館のある三岐線丹生川駅まで無料のシャトルバスが昼間帯に運行されています。
私はこれを知らなかったので阿下喜駅から伊勢治田駅まで歩いて無駄な汗を流してしまいましたが、これから両博物館に見学に行くことをお考えの方は利用されると良いと思います。
(よんかく訪問時現在の情報ですので、実際に行かれる際には事前に確認してください)

次回は貨物鉄道博物館にお邪魔します。