滋賀県の近鉄電車

滋賀県内に近畿日本鉄道の路線はありませんが・・・

琵琶湖の湖南・湖東を走る近江鉄道は明治後期の開業以来、地元の人々から「近鉄」(読みはやはり「きんてつ」)と呼ばれてきたそうですが、のちに発足した近畿日本鉄道の略称として定着してしまって以来、近江鉄道を近鉄と呼ぶことはほとんどなくなったようです。
沿線の高齢者の中には今でも近鉄と呼ぶ人がいるとかいないとか?

数年前の話になりますが、久しぶりに「滋賀県の近鉄電車」の全線に乗りに行ってみました。
(2016年5月21日撮影)

まずはJR草津線、信楽高原鐵道との接続駅・貴生川から。

もうちょっとズラして取り付けて・・・

跨線橋の階段を降りるときっぷ売り場と改札口があります。
島式ホームには2本の編成が停まっており、こちらの黄色い方が先発の米原行です。

ちょっと不機嫌な101系ぽい顔つき

もちろん国電101系ではなく、西武401系車両の改造車・820形車両。
近江鉄道の現有車両は一部を除き親会社西武鉄道からの譲渡車ですが、西武時代のオリジナルの姿を保つ車両はなく、近江鉄道の手で必ず何らかの改造が施されています。大井川鐵道とは対極

運転台を覗いてみるとブレーキハンドルがない・・・
いや、右側の箱のようなユニットから突き出ているレバーがブレーキでした。

他では見られない「近江ブレーキ」と言うべきもので、技術的なことはよくわからないのですが、種車の電磁直通ブレーキを電気指令式に改造した際にこの形となったそうです。

途中の八日市で下車し、八日市線近江八幡行に乗り換えます。
八日市駅は2面3線に中線と側線まである近江鉄道随一の大規模拠点駅です。

3色揃い踏み

近江鉄道の車両というと、かつては白地に青・赤・緑ラインのライオンズカラーが多かったのですが、現在はほとんどが黄色か水色一色となりました。
近江八幡行は西武101系改造の900形車両。ふだん西武鉄道に乗る機会のない私にもわかる西武顔です。
この900形の塗色は当時の「淡海(おうみ)号」カラーで、ダークブルーは琵琶湖の湖水をイメージしているとのこと。同時に埼玉西武ライオンズのレジェンド・ブルー


近江鉄道の終端駅4駅中3駅がJRとの接続駅で、近江八幡駅もそのひとつ。
旅客数が低迷していると言われる中にあって、乗り換え客等で賑わいを見せる駅です。

昼食には普段なかなか口に入らない近江牛をこの機会に賞味しようと、近江牛専門店へ立ち寄ってみました。
とはいえ、すき焼きやステーキは目玉が飛び出るお値段なので、比較的リーズナブルな切り落とし肉の「焼肉丼」を注文します。

それでも吉●家の並が4回食べられる価格でした

食べ終えて駅に戻ると、濃いお茶が欲しくなりました。

この800形シリーズ編成の大半は企業やイベントのラッピング車となっているので、駅で待っていたら何が来るか楽しみではあります。

濃いのと普通のとが選べます

車両の連結部を見ると、車体妻面の裾部分が面取りしてあります。
これも近江鉄道の特徴といえば特徴で、かつて大型車両を導入した際、カーブ上にある駅のホームや施設に車体が接触しないよう面取り加工をしたのが端緒とされています。現在はホームの改良が進み、面取りの必要は無くなったそうです。

さて、ここから八日市駅まで戻るのですが、1つ手前の新八日市駅がなんかすごいというので降りてみました。
八日市線の前身・湖南鉄道時代の1922(大正11)年竣工の洋風建築で、同社の本社機能もあったそうです。

なんかようわからんけど確かにすごい

これ以上年季の入りようがない板張りの壁面、ベンチ、改札ラッチ・・・
それでも完全な無人駅ではなく、平日朝夕の一部時間帯のみ駅員氏が詰めるようです。

八日市駅までひと駅電車に乗ろうと思っても30分間隔の運行ゆえ、歩くことにします。
両駅間は徒歩10分程度の距離なので電車を待つより早く着きました。

八日市で米原行に乗車し、途中の彦根で交換待ち。

彦根駅には車庫が隣接しており、なかなかよい眺めです。
ふとJR側を見ると何か停まっています。

濃いお茶のあとはぜんざいが食べたくなりました

ホームには変わった形状のベンチが。
かなりの年代物ですが、360度ぐるりと人が座れそうなのはいいですね。

周辺の再開発事業によって駅舎が新しく建て直された米原駅に到着。
窓口で硬券きっぷを記念購入して、時間の都合ですぐ折り返します。

残るは多賀線・高宮-多賀大社前間。
分岐駅の高宮駅は本線貴生川方面乗り場と多賀線乗り場が三角形をなしていて、JR小野田線雀田駅や富山地方鉄道寺田駅に似た感じです。

多賀線ホームで待機する800形は、県と沿線市町共同のがん検診啓発ラッピング車です。

がん検診に行きましょう

多賀線は途中ひと駅しかない短距離路線ですが、日常の通勤通学のほか、特に年始の多賀大社参詣輸送に力を発揮する路線です。

高宮を発ち、わかりやすい名称の途中駅に停車。

近江鉄道には企業からの請願駅として、他にも京セラ前駅やフジテック前駅というのがありますが、「前」も付かない社名(商品名)のみという駅名は珍しいですな。

多賀大社前駅 駅前広場に面して多賀大社の大鳥居が建っています

多賀大社前で折り返して帰路に就きはじめます。
高宮駅にやってきたのは「あかね号」塗装の700形編成近江八幡行。これも西武401系の改造車ですが、展望に配慮された前面窓や転換クロスシート設置など他の系列にはない斬新な姿で1998年に登場、2019年に老朽化のため引退しました。

この日は「松本忠 鉄道風景画号」というイベント運用で、同氏による沿線風景の絵画が何点も展示してあります。

三たび八日市駅に降り立ち、貴生川行に乗り換えます。
待機していた800形は豊郷あかね嬢がビールを持って微笑むラッピング。
キリンビール滋賀工場が沿線にある縁で、この編成を使用してビール飲み放題の「ビア電」が運転されていたのですが、コロナ5類移行後もまだ復活していないようです。

貴生川へ戻る道中、時間が多少あるので、ちょっと気になっていた日野駅で下車してみました。
特に理由はないのですが、「三方よし」精神で全国に進出した近江商人ゆかりの歴史ある土地であり、まち歩きでもしてみたいなぁと思ったのです。
そういえば、西武鉄道の創業者・堤家も近江商人の出でした。

この駅も平日朝夕と休日午前のみ窓口の取り扱いがありますが、今はそのどちらでもないのでひっそりとしています。
駅舎は1900(明治33)年竣工と伝えられる国内最古レベルのものだそうで、近江鉄道には前出の新八日市駅しかり、このような文化財級の駅舎が数か所残っています。


待合室内には彦根駅ホームにあった独特なベンチが置いてありました。

ちょっと駅周辺をぶらぶらして、約1時間後にやってきた貴生川行で戻ります。
今日2回目の「淡海号」です。

近江鉄道という会社は、明治時代の創業以来苦しい経営が続いていて西武グループ入り後もなかなか改善せず、廃止をささやかれながらも県と沿線自治体の財政支援で何とか凌いできましたが、2024年4月からは施設の維持管理を公共が受け持つ上下分離方式を導入、近江鉄道は第二種鉄道事業者として新たなスタートを切っています。

「滋賀県の近鉄電車」というより「滋賀県の西武電車」という風情の近江鉄道でした。