すきすききすき線 1

「藝ある芸備線」のつづき。過去の個人FBページに掲載した記事を再構成しました)

駅名は本当に「両線が落ち合う」ことから付けられたそうです(驚

新見駅から芸備線に乗ってきた私は、備後落合駅で木次線に乗り継ぎます。
よんかくにとって木次線は、広島県や島根県あたりへ行くことがあればわざわざ乗りに行くような、今まで何回乗ったかわからないような中毒性のある路線です。

木次線の備後落合-出雲横田間も定期列車が日に3往復と芸備線備中神代-備後落合間に負けず劣らず閑散化が激しく、存廃が取り沙汰されている点でも同じ境遇にあります。
その3往復の定期列車も、毎月1回は線路保守の名目で午前中の1往復だけになるという凄まじさです。

駅内外をちょっと散策してから木次線の1番ホームで待機。構内には現在は使われていない側線や施設がいくつか残され、山側には黄色く塗装された転車台も見えます。
折り返し木次線1462D宍道行となるキハ120単行の1449Dが入線してきました。

日に3本しかない路線同士の乗り継ぎはなかなか至難の業で、2024年5月時点の定期ダイヤでは
・芸備線新見発到着時刻 6341424、1946 →木次線発車時刻 9201444、1741
・木次線到着時刻 907、14251701 →芸備線新見行発車時刻 641、14422010
と上下2回ずつしかチャンスがなく、しかも14時台以外の乗り換えはどちらも3時間前後の待ち時間があります。
なお、芸備線広島方は備後落合発5本・着4本で、木次線とは全列車との接続が考慮されていますが備中神代方とは上下2回ずつしか乗り継ぎの機会がなく、新見発最終列車にいたっては備後落合駅に到着するわずか28分前に三次行最終列車(1918発)が出て行ってしまうという、同じ路線なのに泣くに泣けないダイヤとなっています。

その至難の乗り継ぎをクリアして、木次線車中の人となります。

藝ある芸備線でも触れましたが、待合室にいた年齢層高めな20人ほどの団体さんも一般客と一緒に乗り込みます。混雑するかなと思っていましたがオールロングシートの車内はそれほど混まず、立ち客はいません。
私は車内を背に、宍道駅まで運転席横の最前部かぶりつきに立つことにします。

木次方出発信号機が進行となり、低いエンジン音とともに列車が動き始めました。

【動画】発車から下り遠方信号機手前まで

山間部を延々とうねるように走ること約15分、やっと次の油木駅に到着。
今は棒線駅ですがもともと1面2線の交換可能駅で、早朝にはこの駅始発の備後落合行(休日運休)の設定がありました。備後落合駅から回送されてきた編成を油木駅で折り返す形の運用です。
三次方面への通勤通学の便を図ったこの列車は油木駅棒線化(1990年代前半?)までには廃止されたものと思われ、現行ダイヤではこの駅からの列車通勤通学は事実上不可能となりました。

国鉄監修時刻表1985年5月号(日本交通公社)から

油木駅での閉そく扱いについては不明な点が多く、この始発列車運転以外の時間帯は出雲坂根-備後落合間を併合閉そくとし、冬季の特雪やスキー臨の運転時のみスポット的に油木駅での閉そく扱いを復活させるという話をどこかで読んだことがあるのですが、詳細は調べきれていません・・・というか永遠に闇の中のような気が。

列車は再び山の中をうねうね進むうちに視界がパッと開けて高原の景観となり、広島県から島根県に入って最初の三井野原駅に停車します。駅前(写真右方)にはスキー場が広がり、周辺にはスキー宿も数軒見られます。道後山駅とは違って
この駅にはかつて「三井野原銀嶺」や「三井野原スキー」など、広島方面からのスキー臨時列車が乗り入れていたのですが、並行する国道314号線の整備によりクルマでのアクセスが容易になるとスキー臨の設定もなくなり、それ以降鉄道利用のスキー客はほぼいなくなったものと思われます。

三井野原駅は見てのとおりの棒線駅のため、到着したスキー臨編成は乗客を下ろしたのち次の出雲坂根駅へ回送して構内で留置、帰りの運転時には出雲坂根駅からここまで回送して客扱いを行っていたようです。

次の出雲坂根駅へと向けて出発すると、ふたたび険しい山中へと分け入ります。線路の西側には国道314号線がほぼ並行し、木次線が三段式スイッチバックで苦労して克服した高低差を「奥出雲おろちループ」なる国内最大級のループ道路でいとも簡単にやり過ごして行きます。おろちループが見えるところで列車は最徐行。団体さんの「おぉ〜」という歓声とシャッター音が車内に響きわたります。
木次線にとって脅威である物件を木次線に乗りながらにして眺めて喜ぶというのが何かこう・・・(絶句)

おろちループの片鱗

トンネルをいくつか抜けると、車中の人々ほぼ全員の関心事であろう三段式スイッチバックに接近します。
まずはご挨拶がわりに出雲坂根駅の上り遠方信号機が出現。
※ここからしばらくこんな記述や写真が続くので、信号や閉そくに興味のない方は読み飛ばしてくださってかまいません(大汗

上り遠方信号機

続いて出雲坂根駅の上り場内信号機が現れます。
スイッチバックの折り返し点では停車必須なので、この場内信号機にはG(進行)がなくR(停止)とY(注意)の2現示しかありません。その理屈では遠方信号機もYG(減速)とR(注意)の2現示しかないことになります。

上り場内信号機  最下位のG灯火が目隠しされRとYの2灯式のようになっている

上り場内信号機を少し過ぎたところのトンネル手前にある地上子を踏むとATSの警報が鳴動します。ここは眼下に出雲坂根駅舎を望むことができる地点でもあるので再び最徐行し、警報音に混じって再び団体さんの歓声があがります。
トンネルを出るとすぐに左方から出雲坂根駅から登ってきた線路、そして折り返し点の分岐器を保護するスノーシェルターが現れ、ATS鳴動のままシェルターに突入。

以前訪問時はボロボロだったシェルターが新しく建て直されていました

列車はシェルターを抜けて折り返し線の2両以下停止目標位置のところで停車し、ATS確認ボタン押下とともに警報音が鳴り止みます。
今の木次線はほぼ全て単行列車ですが、その昔には急行「ちどり」がグリーン車を含む最大4両で運転されていたこともあり、折り返し線はずいぶん先まで伸びています。
「ちどり」のような長編成列車の折り返しではエンド交換(運転士が反対側の運転席に移動)せずそのまま後退運転する形となるので、そのための折り返し信号機の中継信号機が建っています。

長く続く折り返し線

この列車は単行なので、運転士氏は反対側の運転席に移動します。
すると、後方に陣取っているくだんの団体さんがこんどは拍手で運転士氏を迎え、車内はいよいよ大衆演劇の芝居小屋の様相を呈してきています。
これで拍手してもらえるのなら、篠ノ井線や箱根登山鉄道の運転士はまちがいなくスーパーヒーローです。

反対向きに走り出した列車はシェルターを抜け、駅ホームへの急勾配の線路をゆっくり降りていきます。

出雲坂根駅の上りホームに到着。
2面2線の立派な構内を持ちますが、現行ダイヤでは列車交換もなく、ただスイッチバックのお守りをするためだけにあるような駅となっています。

出雲坂根駅上りホームに到着

さて、スイッチバックを含めた出雲坂根駅全体を収録した動画を掲載しようかと思ったのですが、時間にすると案外長く、加えてWordPressの動画アップロードが30MBまでとなっているため、仕方ないので8倍速で遠方信号機から駅到着までをおさめた動画を掲載いたします。
ジェットコースターに乗ってるようでなかなか楽しいですよ(←やけくそ?

【8倍速動画・無音】出雲坂根駅遠方信号機から駅到着まで

YouTubeよんかくチャンネルでは1991年7月撮影の「タブレット閉そくの木次線」を公開しています。この動画は宍道発備後落合行の記録なのでスイッチバックも逆方向の映像で、シェルター内の上下方出発信号機の現示の様子もご覧いただけます(画質は良くありませんが)。
よろしければあわせてどうぞ。

出雲坂根駅に着くと、くだんの団体さんは予想どおり下車し、列車を見送ります。このあとはホームに湧く延命水と併設の道の駅を見て、待機しているバスで次の目的地に向かうのでしょう。

列車を見送る団体の皆さん

しかしながらつらつらと思うに、この団体さんは備後落合駅で三段式スイッチバックの説明を聞いて乗ったはずなのですが、出雲坂根駅を出発して初めてZ形の「三段式」になるのであって、ここで降りてしまっては二段のフツーのスイッチバックに乗ったことにしかならないのではないか、と。
いやしかし、備後落合からたった330円の運賃(しかも団体割引)で皆さんこれだけ楽しんでもらえたのなら、それはそれで良かったのでしょうね。

ガラガラになった列車は再びエンド交換し、次の八川駅へ向かって出発。
八川駅はかつて列車交換可能だった駅で、駅前にはバス2台ぐらいは停められそうなスペースと「八川そば」の店があります。こだわるようですが、私が備後落合発「三段式スイッチバック体験ツアー」のツアコンならここ八川駅まできっちり乗ってもらいます(笑

ここから列車はさらに宍道駅へと向かって進みますが今回はここまで。
残りは次の機会にご覧いただきたいと思います。