周って遊ぶ周遊券 ファイナル

「周って遊ぶ周遊券 3」のつづき)

時の流れと旅行形態の変化とともに、周遊券は少しずつその姿を変えて行きました。

下は「国鉄監修 交通公社の時刻表」1985(昭和60)年5月号の周遊券ページです。各種割引乗車券などを集めた「トクトクきっぷ」というカテゴリーが作られ、周遊券もその中に位置付けられることになります。
一般周遊券にはいくつかのマイナーチェンジが施され、国鉄線と国鉄連絡船の割引率が2割(学割は3割)となり、周遊指定地から昇格した「特定周遊指定地」(後述)は1か所訪れるだけで一般周遊券の条件を満たすこととされました。
「グリーン周遊券」はかつての「ことぶき周遊券」のリメイク版で、運賃だけでなく各種料金も割引となるほか、夫婦であれば新婚でなくても利用可能となりました。新婚旅行ならお見送り用入場券10枚サービスも健在(笑

なお、1か所でOKの「特定周遊指定地」には、阿寒国立公園、十和田・八甲田、陸中海岸国立公園、蔵王山、佐渡、尾瀬、志賀高原・山ノ内温泉郷、伊豆諸島、立山・黒部、中部山岳国立公園(乗鞍岳、上高地など)、秋芳洞・奥秋吉台、足摺・宇和海国立公園、雲仙国立公園、沖縄 の全国14か所が選定されていました。
もちろんいずれも人気の高い観光地なんですが、国鉄駅からかなり離れた位置にあるものが多いのは「掛け捨て」利用を抑制する意図も含まれているかのようです。

特定周遊指定地 地図ではピンク色に塗られ、時刻表本文の指定地駅には蛇の目(◉)記号

いっぽう、ワイド・ミニ周遊券は自由周遊区間内に限り特急列車の自由席利用可能となりましたが、指定席やグリーン席など自由席以外の席を利用する場合は特急券を買う必要がありました(急行も同様)。
そして特筆すべきは、北海道と九州に設定されていた片道航空機利用の「立体ワイド」から、往復経路ともに鉄道、船舶、航空機から自由に選択可能な「ニューワイド」へのリニューアルでしょう。例えば往路フェリー+復路航空機という旅行もできるようになり、往復経路と自由周遊区間を完全分離して販売するシステムはのちの「周遊きっぷ」に引き継がれていくこととなります。

ニューワイドには四国版も加わりましたが、もともとの四国ワイドには関西汽船が経路として残っています。ニューワイドなら船舶も選べるのに結局同じことやん?と思いますが、有効日数はワイドの方が長いことに加え、小豆島での途中下船の需要もある程度あったためなのかなと思います。

ワイド・ミニは、新幹線や新線の開業や路線の廃止に伴う自由周遊区間の変更など細かい異動はあるものの、前回までで紹介した1977年当時のラインナップと基本的には変わっていません。
ひとつビミヨな変更が行われた事例として、こちらで登場した南近畿ワイド。1977年当時の自由周遊区間は「関西本線亀山-湊町以南」というそっけないものでしたが・・・

1985年の南近畿ワイド欄は自由周遊区間が図示されてわかりやすくなったと思いきや、これは旧来の自由周遊区間に関西本線名古屋-亀山間と伊勢線(現・伊勢鉄道)河原田-津間が加わったことによります。要は「関西本線亀山-湊町以南」が「関西本線以南」になったのですが、そんな書き方では鉄ちゃん以外には分からんやろ!ということなんでしょう。

自由周遊区間が拡張されるのは利用者にとって喜ばしいことなんですが、実は名古屋駅が自由周遊区間に入ってしまったために旧・南近畿ワイドに設定のあった名古屋発がなくなってしまったのです。
名古屋の皆さん、ここは怒ってもいいところですよ!(過去のハナシですが・・・)

さて、一般周遊券の割引率アップやワイド・ミニの好調さの陰で割を食ってしまったのがルート周遊券で、中途半端な立ち位置にあったせいか次第しだいに廃止され、1977年時点では61コース(サブルートを除く)を数えていたものが北海道、四国、九州ではついにゼロになり、1985年にはわずか21コースに激減しました。
ご覧のとおり時刻表での扱いも貧相なものとなり、「雪がとけないと開通しないルートもあります」という注記がさらに寒々としたものを感じさせます。

 

それからさらに時を経て、ついに来る時が来ました。周遊券の廃止と、その後継となる「周遊きっぷ」の販売開始です。
「JTB時刻表」1998(平成10)年4月号には下のような告知が掲載されました。「ワイド・ミニ・ニューワイド周遊券」としか書かれておらず一般周遊券とルート周遊券に言及されていないのは、それらはもはや商品として認識されなくなるほどに衰微していたということなのでしょうか。

右下には地味に「サンライズ」運転開始のお知らせも

新しくお目見えした「周遊きっぷ」はニューワイド周遊券の汎用タイプみたいなもので、「ゆき券」と「かえり券」(両方まとめて「アプローチ券」)、周遊ゾーン(自由周遊区間)用の「ゾーン券」の3枚1組で構成されます。周遊ゾーンは全国に67か所設定され、従来のワイド・ミニの自由周遊区間にはなかったゾーンや、私鉄など民営の交通機関も利用可能なゾーンも多く登場したため、これはこれで乗り鉄派からは歓迎されていたものと思います。
アプローチ券は一般周遊券と同じく、出発駅と帰着駅が同一かつ往復それぞれJRを201キロ以上利用(片道に限り航空券で置き換え可能)で、一般の片道乗車券と同じルールが適用され、経路に制限はなく往復で異なる経路も可というものでしたが、
 ・経路上で急行、特急などを利用する場合は急行券、特急券などが必要(急行利用可の特典なし)
 ・各ゾーンに設定された入口(出口)駅を通ってゾーンに入らなければならない
 ・JR線は2割引(学割は3割引)だが、東海道新幹線を使う場合は5%引き
など、きっぷの組み立て方に様々な条件が課されていたこともあり、制度説明だけで時刻表の2ページを費やすような面倒臭いきっぷになってしまった点も否めません。
また、ニューワイドで往復経路とも鉄道以外からも選択自由となっていたのが、また原則鉄道縛りに戻ってしまいました。やはり往復経路という美味しい部分を鉄道で確保しておきたいという意図かと思われます。

なお、周遊券廃止後に実体的意味をほぼ失った「周遊指定地」は、時刻表の索引地図や本文にはしばらく記載されていました。たぶん内部規定の改訂等の都合なのかなと思うのですが、ほどなく「周遊おすすめ地」という奥歯にモノが挟まったような用語に改められました。

凡例の「周遊おすすめ地」の文字(JTB時刻表2008年6月号)

まぁここまで来れば乗りかかった船なので、67ゾーン全部見ていただきましょう。まずは北海道・東北から。
前述のとおり、各ゾーンへの出入りは入口(出口)駅(◎印の駅)を通る必要があります。ゾーン券の有効日数は一律5日間で、北海道ゾーンなどを乗り鉄するには全く日数が足りません。
また、ゾーン内に新幹線が図示されている場合、特に断り書きがなければ新幹線自由席にも乗ることができました。

続いて関東・中部。
妙高・軽井沢ゾーンでは三セク転換されたしなの鉄道もゾーンに入っています。また、三河湾・日本ラインゾーンや大井川・浜名湖ゾーンなどもJR以外の交通機関が幅広く取り入れられ、お得感をアピールしています。
ただし、各ゾーン内の東海道新幹線に乗るには、東北・上越新幹線と違って特急券が必要でした。

北陸、関西、山陽、四国。
越前・若狭ゾーンは福井鉄道とえちぜん鉄道、近江路ゾーンは近江鉄道、北近畿ゾーンは北近畿タンゴ鉄道(現・京都丹後鉄道)、松江・出雲ゾーンは一畑電車を含んでおり、私鉄乗り鉄派にはありがたいきっぷです。
また、ゾーン内の山陽新幹線は東海道新幹線と違って東北・上越新幹線と同様、自由席に乗車可能でした。J海・・・

四国の続きと九州。
四国ゾーンは土佐くろしお鉄道と阿佐海岸鉄道が全線利用可能で、四万十・宇和海ゾーンもそのようになっています。

 

往復経路や自由周遊区間がほぼ全て国鉄・JRに限られ、乗り鉄派以外の需要に応えきれなくなった周遊券に代わって華々しい?デビューを飾った周遊きっぷ。しかしながら、航空路線や高速バス網の発達という流れの中にあっても依然としてJR線にこだわる制度設計に変わりはなく、売れ行きの良くないゾーン券はバタバタと廃止の憂き目に遭い、周遊きっぷが2013年3月に販売終了となる直前には13ゾーンしか残っていなかったといいます。

実を言うと、周遊きっぷ登場の時期のよんかくは自身の結婚や妻の出産など私的なイベントがバタバタと続き、仕事も忙しい時だったので鉄道旅行自体をほとんどしていません。少しぐらいしていたかも知れませんが記録に残しておらず、使用済みのきっぷも残っていないので、そういうことだったのでしょう。
いっぽう、新幹線開業などによる在来線三セク化が相次いでゾーン内容が削減されたりゾーンそのものが廃止されたり、各地で各種フリーきっぷがどんどん発売されたり、青春18きっぷが依然高い人気を維持していたり・・・というようなことも重なって、周遊きっぷの魅力が相対的に低下していった面もあったようにも思えます。
JRとしても周遊きっぷという制度を作ったものの、発行に手間がかかるせいか積極的に売りたいという機運に乏しく、言い方は悪いですが末期には「座して死を待つ」状態になっていたのかも知れません。

そして現在は、青春18きっぷがまさに同じような道を歩んでいるかのように思えるのです。
 

前回「よんかくが周遊券を使ってどんな旅をしてきたのか」について書く予告をしていましたが何となく湿っぽい終わり方になってしまったので、楽しみにしていただいていた方には申し訳ございませんが、気分を変えて次回によもやまってみたいと思います(大汗