夏だ!ビーチだ!海水浴臨だ! 1

こんなタイトル、見出し詐欺みたいで好かんのやけど

連日の猛暑酷暑で、たまには海やプールにザブンと飛び込みたい気分です。
最近はプールやスパリゾート施設なんかがあちこちにありますし、海へ行くのはほぼほぼクルマですから、列車で海水浴に行くという行為はもう限られた人や地域だけのものとなってしまった感があります。
しかしながら、かつては国鉄・JRなどで「海水浴臨」が数多く設定され、大量の海水浴客を運んできた歴史があります。むしろ、海水浴という文化は鉄道によって育まれてきたと言っても過言ではないも知れません。
そこで、今回は海水浴臨華やかなりし頃の時刻表シーンをいろいろ見ていきたいと思います。

まずは、ネタ元となった「国鉄監修 交通公社の時刻表 1978年8月号」の装丁から。
表紙写真は在来線時代の「あさま」です。夏らしくていいですね。

裏表紙の片平なぎさ嬢も若いですねぇ。
当時はペットボトルなどありませんからキリンレモンもガラスビン入りです。子どもの頃、ビンの口に唇を当てて息で「ボーッ」て鳴らしてよく遊んだもんです(右上の女の子もそう見えますが違いますね多分)。

これで海水浴気分が盛り上がりましたでしょうか?
それでは改めて夏だ!ビーチだ!海水浴臨だ!もうええっちゅうに

まずは、西日本方面を走っていた海水浴臨。列車名に「ビーチ」の付くものが多いのが特徴で、さっそく西日本各所の「ビーチ列車」を追っていくことにします。

近畿圏に近い日本海側の海水浴スポットである若狭・山陰方面。
夏季以外の小浜線は優等列車もそんなに多くなくひっそりとしていますが、海水浴シーズンともなるとあちこちから海水浴臨が乗り入れてきて、まるで違う路線であるかのような活況を呈します。
「おばまビーチ」「わかさビーチ」などのいかにも海水浴臨な列車のほか、「わかさ51」のような定期列車の増発便や列車名のない快速列車など、多士済々です。
名古屋から東海道線・北陸線経由で来ている「エメラルド」も、澄み切った海というイメージの海水浴臨にふさわしいネーミングですね。

宮津線(現・京都丹後鉄道)には「丹後ビーチ」と「はしだてビーチ」。同じビーチ列車でも、所要時間や停車駅数の違いによって急行と快速という区別があります。
行きの「丹後ビーチ」は大阪発の東海道線・京都・山陰線経由で、帰りは京都止まり。逆に「はしだてビーチ」の行きは京都始発ですが帰りは山陰線・京都・東海道線経由の大阪行という、こんなややこしい運行形態でいったい誰が喜ぶのかと思うような変則ぶりです。よんかくは喜んでますが

山陰本線には大阪から香住・浜坂まで「但馬ビーチ」が乗り入れ。急行ですが2号は城崎(現・城崎温泉)-香住間は全駅停車で、冬になると同じスジで「かにすき列車」が走ります。
京都526発835レ浜田行や大阪537発721レ出雲市行に乗れば運賃だけで城崎駅以遠の海水浴場駅まで行けますが、着いても泳ぐ体力が残っているかどうかいささか不安です。

このほか、居組行「山陰ビーチ」が地味に運転されています。海水浴場至近の東浜駅への誘客が主目的の列車と思われますが、帰りの発車まで編成を留置しておくため当時2面3線の折り返し可能駅だった居組行となったものでしょう。
居組駅からもう少し足を伸ばして城崎駅まで運転すればさらに多くの海水浴場や観光地をカバーできるのではと思いますが、東浜駅と居組駅の間には鳥取・兵庫県境と当時の米子鉄道管理局と福知山鉄道管理局の管轄境界があり、折り返しの都合でなんとか居組駅までは越境できたものの、列車本数の多い福鉄局側への局またぎ臨時スジが設定しにくかったのかも知れません。

この「山陰ビーチ」、運転初日の7月20日から22日までは運転区間が日替わりという変わった列車です。
7/20(木) 中国勝山→居組→岡山
7/21(金) 津山→居組→中国勝山
7/22(土) 岡山→居組→美作土居
7/23(日)〜 岡山→居組→岡山
21日の中国勝山行は居組-津山間だけ臨時で、津山-中国勝山間は定期列車861Dがそのまま引き継ぐ運用です。

22日居組発の終着・美作土居駅は折り返し列車もなく急行停車駅でもない小駅なのですが、隣の上月駅との間には岡山・兵庫県境と岡山鉄道管理局・大阪鉄道管理局の管轄境界があり、岡鉄局としては律儀に岡山県内・管理局内でとどめたダイヤとなっています。
車両運用の都合と思われますが、美作土居発の設定がなく、中国勝山駅発・着が平日の2日間にまたがるなど、せっかく山間部から海へのアクセスとして設定されているはずなのにいまひとつ利用しにくい、謎の「山陰ビーチ」でした。

さて、山陰本線の幡生方では下関-滝部間「北浦ビーチ」がひとり気を吐いています。海沿いに走る小串-長門二見間あたりの海水浴場がターゲットでしょうか。客車列車なので、山陰本線で運用されている旧型客車をそのまま使っていた可能性が高そうです。
ちなみに「北浦」とは長門国西北部の日本海沿岸を指す広域的な地域名とのことです。

山陽方面には岩国駅と呉線忠海(ただのうみ)駅を結ぶ「大久野島ビーチ」。駅近くの忠海港から、大久野島などの離島への客船とフェリーが出ています。
これも客車列車ですが、電車ばかりの路線に旧型客車を走らせるとはちょっと考えにくいので、こちらは波動用の12系客車が使われていたかも知れません。

九州方面は意外にも海水浴臨がほとんどなく、日豊本線の「スイミング号」という直球な名前の列車が孤軍奮闘しています。大分-佐伯間には海水浴場があるにはあるのですがほとんどは駅から遠く離れていて、気軽に乗って泳ぎに行ける海水浴臨というわけではなさそうです。

なお、近畿圏でポピュラーなサマーリゾート地である南紀方面を走る紀勢本線にもなぜか海水浴臨と呼べる列車は見当たらず、特急「くろしお」や急行「きのくに」など定期列車の臨時増発で対応していました。

さて、こんどは戻って中部地方へまいります。
北陸本線にも海水浴に特化した臨時列車は見当たらず、特急「雷鳥」「加越」や急行「立山」など定期列車の増便対応が見受けられる程度です。
意外なところでは、大糸線松本駅と北陸本線(現・えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン)谷浜駅を結ぶ「さざなみビーチ」。南小谷-糸魚川間の非電化区間を挟むため気動車による運転で、この当時は糸魚川区か富山区のキハ55が使用されていたようです。
谷浜駅は目の前が海水浴場という好立地で、のちに長野駅から直江津経由の能生行「かもめビーチ」も停車していました。

次は氷見線「ひみビーチ」。これだけ見るとミニ列車のようですが、なんと高山本線高山駅から乗り入れています。「さざなみビーチ」と同じく、山間部・内陸部の人たちを海へいざなう列車ですが、始発駅の発車時刻が5〜6時台とめっぽう早く、どのぐらいの利用率だったのかは興味のあるところです。

高山本線内は定期列車に併結(高山行は猪谷-高山間単独運転)。
他にも「北アルプス」延長運転や「うなづき」「むろどう」など夏季ならではの列車が走る高山本線です。

次回は関東・信越方面の海水浴臨を取り上げていきます。