新明解通票辞典

腕木式信号機【うでぎしきしんごうき】 鉄道に用いられる信号機の一種で、腕木と呼ばれる細長い板を上下に動かすことによって停止あるいは進行を現示する。機械式信号機ともいい、現在のような色灯式信号機が普及する以前の鉄道信号機の主流であった。 停車場の信号扱所(てこ小屋)に設置された信号てこと信号機がワイヤーで結ばれており、 信号てこの動きをワイヤーで伝達し腕木を上下させるクランク機構を備えていた。腕木が水平の時は 停止を示し、これが定位(通常の現示)であるが、 信号てこを倒すと腕木が約45度下方に傾き進行を現示する。腕木の回転軸部分の反対側には赤と緑の灯火部分(メガネ)があり、腕木が見えない夜間はこの後部の電球を点灯させることによって 色灯式信号機のように信号を現示していた。
腕木を上下させるクランク機構には重錘(おもり)が付いており、重錘が下がっている状態が定位(停止)であるため、ワイヤーの断裂などで信号機が操作不能となった場合は 重錘が下がり安全側の停止現示となるフェイルセーフ設計となっている。
腕木式信号機は可動部のメンテナンスに手間がかかり、ワイヤー伸びや断裂によるトラブルも起こりやすく、スイッチ操作で電気的に腕木を動かすA型電気信号機が開発されたものの、 色灯式信号機の量産に伴って急速に数を減らしていった。JRでは八戸線陸中八木駅のものを最後に全廃され、国内では津軽鉄道に残るのみとなっている。
なお、国内で自動閉そく方式が導入された当初には、注意現示を加えた三位式腕木信号機も存在したが、これも色灯式信号機の普及により昭和初期には姿を消してしまったようである。

キャリア【carrier】 通票授具。通票を収納するバッグに大きな輪(直径20〜40cm程度)を取り付けたもの。皮革製で、輪の芯にはワイヤーが用いられている。円盤状の通票は通常、このキャリアに収納した状態で取り扱われる。 通票そのものを知らなくても、駅員と運転士の間でキャリアを受け渡しする光景を見たことのある人は多いはず。この大きな輪は通過授受時の便を考慮したものだが、通過授受が消滅した現在においてはシンボル的な意味しか残っていないものと思われる。

自動閉そく方式【じどうへいそくほうしき】 地上の運転要員(駅長など)の手を経ることなく列車自体が自動的に閉そくを行う方式。非自動閉そく方式の対義語。複線区間を対象とする複線自動閉そく式と、単線区間を対象とする単線自動閉そく式自動閉そく式(特殊)特殊自動閉そく式、バリス式列車検知形閉そく装置がある。また、以上の閉そく方式は路線を固定した閉そく区間(停車場構内の場内信号機から出発信号機の間も1閉そく区間とする)に区切ることが必須条件である(固定閉そく)が、この進化形として、無線通信などを利用し列車の移動に伴って閉そく区間を移動させることによって、固定閉そく方式より柔軟な列車運行とともに地上側設備の大幅な削減を図る「移動閉そく」がJR一部区間で運用を始めている。

自動閉そく式(特殊)【じどうへいそくしき(とくしゅ)】 単線区間における自動閉そく方式の一種で、自動Bとも呼ばれた。特殊自動閉そく式と名称が似ているが全く別の方式である。停車場間を1閉そく区間(停車場構内の場内信号機から出発信号機の間も1閉そく区間)として連続した軌道回路を設置する、いわば単線自動閉そく式の簡略版であるが、単線自動閉そく式に比べて設置費用が安価なため、列車密度からして単線自動閉そく式を導入するほどでもない亜幹線系線区や一部の地方交通線に普及した。停車場間が1閉そくのため、ある停車場を出発した列車が次の停車場に到着しない限り、続行列車を出すことができない。なお、停車場間に連続した軌道回路を設置する点では連動閉そく式の自動版とも言うことができ、現に当初は連動閉そく式の一種として整理されていたが1970年に自動閉そく方式として認められた経緯を持つ。連動閉そく式が閉そくと運転方向の設定、ポイントの転換等を停車場の運転要員(駅長など)が行うのに対し、自動閉そく式(特殊)は列車が軌道回路を踏むことによって自動的に閉そくを行うので、停車場の運転要員は運転方向の設定のみを行う(CTC(列車集中制御装置)導入線区はCTC扱い所で一元的に遠隔操作するため停車場の運転要員は不要)。また、停車場間に閉そく信号機が設置されないため、原則として遠方信号機が設置される。

スタフ【staff】 スタフ閉そく式で使用される通票のこと。元来は「杖、棒」の意味。現在のスタフはほとんどタブレットと同じ円盤状のもの(材質はアルミやプラスチック等もある)が使われているが大昔の通票は棒状で、リレー競走のバトンのような棒の先に金属板(○□△)を取り付け、その金属板の形で種別を判別していた。棒状通票はかつての地方私鉄などで多く使用されていたが次々と姿を消し、現在は津軽鉄道と名古屋鉄道築港線のみで現役であり、鉄道史の生き証人ともいえる存在となっている。
なお、運転士が使用する運転時刻表のことをスタフと呼称する場合があるが、当サイトでスタフといえば通票のスタフを指すのでご注意願いたい。


名古屋鉄道築港線で使用されている棒状のスタフ

スタフ閉そく式【すたふへいそくしき】 非自動閉そく方式の一種。1閉そく区間に唯一存在する通票(スタフ)を列車に携帯させることで閉そくを確保する。(取扱いミスさえなければ)閉そく区間内に2本以上の列車が入線することがないため追突や正面衝突のおそれはないが、単純なピストン運転しかできず、ダイヤ組成上の制約は非常に大きなものとなる。列車本数が少なく、同方向に続けて列車を出す必要のない線区で使用されている。
かつては「通票式」と称し代用閉そくの位置づけだったが、1965年に常用閉そくとして認められた。それまでは、単純なピストン運転しか行わない路線であっても票券閉そく式など他の常用閉そくを施行するケースが見られた。
スタフ閉そく式(「通票は列車の通行手形」内解説)

続行運転(軌道)【ぞっこううんてん】 通票式を施行している単線軌道線の保安区間において、ひとつの通票を根拠として同一方向へ複数の車両を運転すること。続行運転の先行車両は前面に「続行票」を掲出し続行車両があることを表示するとともに、 通票は最後尾の車両が携帯する(例えば3両が続行する場合、1両目が続行票を掲出し3両目が通票を携帯)。このため、先行車両が続行票を掲出するためには、続行最後尾の車両の運転士が通票を所持していることを先行車両の運転士が目視で確認しなければならない。したがって、続行票は普通鉄道の票券閉そく式における通券に類似した役割を持っていると考えられる。なお、続行運転は乗客が多い時の増発とともに、各保安区間の通票の配布と回収を行う際の取り扱いにも利用される。→とさでん交通伊野線における通票式と続行運転

タブレット【tablet】タブレット閉そく器を使用するタブレット閉そく式における通票のことだが、広く通票一般を指す場合もある。直径10cm、厚さ1cm弱の真鍮製の円盤。元来は「錠剤」等の意味で、形状の類似性から。

タブレット折返使用【たぶれっとおりかえししよう】タブレット閉そく式において、列車から停車場に渡されたタブレットをそのまま対向列車に渡す取扱い。本来、停車場に到着したタブレットはその駅のタブレット閉そく器にすみやかに収納し、タブレットが外に全く出ていない状態を一旦作ってから次の閉そく作業を行う、というのが原則である。しかし列車の行き違いがある場合、タブレットを収納してまた閉そくをやりなおしてタブレットを出す、という作業をいちいちやっていたのでは作業効率が悪く、時間もかかる。この場合、取扱いにかかる時間が5分以内であれば、列車から受け取ったタブレットを閉そく器に戻すことなく対向列車に渡して出発させるというスタフ閉そく式的な取扱いが行われる。この場合の閉そく作業は、タブレットを折返使用する列車すべてについて一括して閉そくをとる形となり、折返使用中は両駅の閉そく器に「タブレット折返使用中」の札を掲示して一時使用中止状態とする。

タブレット閉そく式【たぶれっとへいそくしき】非自動閉そく方式の一種。複数のタブレットを収めたタブレット閉そく器を各駅に設置し、駅どうしの打ち合わせによって閉そく器からタブレットを取り出して列車に携帯させることで閉そくを確保する。同時に2枚以上のタブレットが閉そく器外に出ないように工夫されており、 当該区間のタブレットを持つ列車は1本に限られるため、2本以上の列車が同一区間に進入することはあり得ないということになる。駅同士の閉そく作業により運転方向が設定できるため、ピストン運転しかできないスタフ閉そく式や同一方向への続行運転しかできない票券閉そく式よりもはるかに自由度の高いダイヤ設定が可能である。→タブレット閉そく式(「通票は列車の通行手形」内解説)

玉【たま】通票を広くこう呼ぶ。主に現場での符牒。→トークン

単線自動閉そく式【たんせんじどうへいそくしき】単線区間における自動閉そく方式の一種で、自動Aとも呼ばれた。停車場間を複数の閉そく区間(停車場構内の場内信号機から出発信号機の間も1閉そく区間)に区切って閉そく信号機を設置し、区間ごとに連続した軌道回路を設置することによって列車の在線状況を把握し閉そくを行う、複線自動閉そく式の単線版。単線なので停車場間にはいずれか一方への列車しか運行できないが、ある停車場を出発した列車が直近の閉そく区間を退出すれば当該停車場から続行列車を出すことは可能であるため、優等列車の普通列車追い抜きなどが行われる列車密度の高い幹線系の線区で使用されている。
なお、単線自動閉そく式を導入するだけでは閉そくが列車により自動で行われるに過ぎないため、運転方向の設定やポイントの転換などは依然として停車場の運転要員(駅長など)の業務として残ることになるが、ほぼ全ての単線自動閉そく式路線ではCTC(列車集中制御装置)等の運転制御を併設しているため、これらの運転業務もCTC扱い所等で一元的に遠隔操作により行なわれる(このことは他の自動閉そく方式にも当てはまる。したがって、非自動閉そく方式から自動閉そく方式に転換されても、CTCが導入されるまでの間は現地扱いで駅長が運転業務を行なっていたケースが見られた)。

通過授受【つうかじゅじゅ】列車の通過駅において、走行しながら通票の受け渡しを行うこと。通票の受け渡しは列車を駅に停車させて行うのが原則だが、急行・特急や貨物列車などが閉そく扱い駅(交換可能駅など)を通過する場合は、駅ホーム上に建植されている通票受器に運転士が走行しながら通票を収めたキャリアを引っ掛け、同じく駅の通票授器にセットされた通票を取り去っていく。俗に「投げ渡し」「すくい取り」と言われていた。路線や駅によっては受器・授器を用いずに、走行しながら駅長などが差し出す腕に通票を投げ入れたり、手に掲げた通票を取り去るといった光景も見られた。
なお、国鉄・JRで通過授受を行う列車には、運転を担う運転士と通過授受を専門に行う運転士(補助運転士)の2名乗務が原則だったが、一部の私鉄では1人の運転士が運転しながら通過授受も行う例があった。その昔、蒸気機関車による列車では通過授受は機関助士の仕事であった。
かつては各地で当たり前に行われていたが危険を伴う作業であり、通票を取り損ねた場合は列車を緊急停止させて通票を拾いに行かなければならないという運行上の支障となる問題もあって、
連査閉そく式連動閉そく式のようなトークンレス非自動閉そく方式の導入や自動閉そく化の進展、路線の廃止等によって急速に姿を消し、JR上からは1997年、因美線智頭−東津山での急行砂丘を最後に完全消滅した。


通過授受の様子(因美線那岐)

通券【つうけん】票券閉そく式において使用される通票代わりの列車運転許可証。縦10cm×横7cm程度の紙製カードで、通常は駅に置かれた通券箱に収納されている。続行運転の必要のある時、駅長は通券箱に通票を挿入して解錠ののち通券を一枚取り出し、日付・列車番号等を記入のうえ列車に携帯させる。なお、駅長は通券を運転士に交付する際に通票も同時に提示しなければならない。次駅に到着した通券には大きく×印がつけられ再使用できなくなるが、使用後の通券は監査等の関係で一定期間の保存が義務付けられている。


津軽鉄道で使われていた通券。赤丸は通票種別(第一種)を表す

通票【つうひょう】鉄道の単線区間において、一閉そく区間内に一列車しか運転を許さないために列車に携帯させる運転許可証票。JR以前の国鉄時代は規則上タブレット閉そく式を「通票閉そく式」、スタフ閉そく式を「通票式」と呼称し、「通票」という言葉はタブレット・スタフの区別なく使用されていたが、現在では厳密には票券閉そく式で用いられる通票のみを「通票」と呼称している。
当サイトではタブレット・スタフ・通票の三者の総称として「通票」という語を使用しており、現在の鉄道関係法規や規則等における用語とは一致していないことを付け加えておきたい。

通票受器【つうひょううけき】通票の通過授受時に用いる補助用具。前駅で受け取った通票を収めたキャリアをこれに引っ掛けてそのまま通過する。 受器の形状で最も多いのは細い棒が渦巻き状になっている「スパイラル」(俗に「蚊とり線香」)と呼ばれるものだがさまざまな形状のものがある。JR旅客線で最後まで通過授受を行なっていた近年まで因美線で使用していたものは垂直ポールの先に横にアームが突き出た形になっており、そこに引っ掛けるとキャリアを保持したままアームが下に垂れ下がるという、メカニックな構造のものであった。 →通過授受

通票授器【つうひょうさずけき】通票の通過授受時に用いる補助用具。列車はここにセットされた通票を取り去って通過して行く。これもさまざまな形状のものがあった。→通過授受

通票式(軌道)【つうひょうしき】路面電車等の軌道線における保安方式のひとつ。軌道線の単線区間において普通鉄道と同様の通票を使用して行き違い可能停留場間の区間(保安区間)の安全を確保する方式で、とさでん交通伊野線の朝倉ー伊野間が現在における唯一例である。通票式における通票は保安区間に対向車両が進入して来ないことを保証するだけのものであり、当該区間の通票を根拠として複数車両による同一方向への続行運転が可能となっている。

通票搬送装置【つうひょうはんそうそうち】通票(タブレット)閉そく式の線区の停車場において、タブレット閉そく器のある駅本屋から通票授受場所までが相当離れているなどの場合(旅客列車の発着ホームと貨物列車の発着場所が離れている駅など)、いちいち通票を持ち運ぶ不便を解消するために考案された装置あるいは取扱いのこと。通票搬送装置という特別な機器があるわけではなく、駅本屋と授受場所との間にもう1組の同一種別の通票閉そく器(搬送用)を設置し、駅本屋で取り出した玉を搬送用閉そく器に収めて閉そく作業を行って発着場所で玉を取り出して列車に渡すという、いわば通票の「バーチャル搬送」とも言うべき、閉そくの原則からすればやや危なっかしい取扱いである。
詳しくは特設ページ
通票搬送装置を参照されたい。

トークン【token】通票を広くこう呼ぶ。元来は「記念品、代用貨幣」の意味。かつては連査閉そく式連動閉そく式といった通票を用いない非自動閉そく方式を「トークンレス」と言っていた。→

特殊自動閉そく式【とくしゅじどうへいそくしき】単線区間における自動閉そく方式の一種。自動閉そく式(特殊)と名称が紛らわしいが全く別の方式である。停車場間を1閉そく区間(停車場構内の場内信号機から出発信号機の間も1閉そく区間)とするのは自動閉そく式(特殊)と同じであるが、自動閉そく式(特殊)が停車場間に連続した軌道回路を設置するのに対し、特殊自動閉そく式では停車場の場内信号機付近に短小な軌道回路を設置する点が大きく異なり、 停車場間に閉そく信号機が存在しないので原則として遠方信号機が設置される。CTC(列車集中制御装置)の併設が前提となっており、自動閉そく方式の中で最も安価で工期も短くて済むため、全国の非自動閉そく方式路線のCTC化を急速に推進する原動力となった。軌道回路検知式と電子符号照査式の2種類に大別される。
軌道回路検知式・・・場内信号機付近に設置されたOT(開電路式軌道回路)及びCT(閉電路式軌道回路)を列車が一定方向に踏むことにより列車の進入・進出を検知し(チェックイン・チェックアウト方式)、閉そく区間内の在線状況を把握する。OT及びCTのほか、場内信号機の1〜1.5km程度外方にある接近点でも列車を検知している。連査閉そく式の自動版とも言うことができる。
電子符号照査式・・・停車場の閉そく装置が隣接停車場と回線で結ばれており、列車上の車載器から列車固有の電子符号を停車場の閉そく装置に送信することにより停車場間の閉そく装置同士が閉そく状況を検知のうえ信号を現示し、閉そくを確保する。「電子閉そく」と呼ばれることもある。軌道回路を踏んで駅に進入した際に車載器が自動で閉そく装置と交信する「電波方式」と、駅到着時と出発要求時に運転士が車載器を操作する「赤外線方式(光方式)」とがあるが、赤外線方式は駅での停車が必須のため通過列車が設定できない。

非自動閉そく方式【ひじどうへいそくほうしき】地上の運転要員(駅長など)が閉そくを行う方式。自動閉そく方式の対義語。単線区間を対象とするスタフ閉そく式票券閉そく式票券指令閉そく式タブレット閉そく式の通票を用いる方式と、連動閉そく式連査閉そく式の通票を用いない方式トークンレス)がある。自動閉そく方式が、停車場構内の場内信号機から出発信号機の間も1閉そく区間とすることによって線区全体が途切れなく閉そく区間の連続体となるのに対し、非自動閉そく方式では停車場構内(上下場内信号機の内方)は駅長が管理する区間として閉そく区間から除外している。すなわち、非自動閉そく方式の停車場構内における列車運行は駅長が管理責任を負うため、駅長の列車監視が必須となる(非自動閉そく方式の駅で駅長がホームに立って列車の出迎えと見送りを行うのはこのため)。また、停車場間に閉そく信号機が存在しないので原則として遠方信号機が設置される。
かつては複線区間で用いる非自動閉そく方式として「双信閉そく式」が存在したが、列車本数の多い複線区間において人手により閉そく作業を行うのは煩雑かつ安全性にも問題があるため、ほとんどが早々に複線自動閉そく式に転換され、1965年の国鉄伊田線を最後に完全消滅した。

票券閉そく式【ひょうけんへいそくしき】非自動閉そく方式の一種。1閉そく区間に唯一存在する通票のほか、閉そく区間両端の駅には通券を収めた通券箱が備え付けられている。両駅長が電話等で打ち合わせすることにより、通票を持つ側の駅で通券を発行して列車に携帯させ、その続行列車に通票を携帯させることによって、同一方向への続行運転が可能である。一度使われた通券には大きく×印がつけられ、再使用できなくなる。列車本数が比較的少ない路線向けの方式だが、スタフ閉そく式のように単純なピストン運転しかできない方式よりはダイヤ組成に若干の自由度がある
スタフ閉そく式が常用閉そくとして認められる以前は、票券閉そく式を事実上のスタフ閉そく式として使用している路線があった。→ 票券閉そく式(「通票は列車の通行手形」内解説)

票券指令閉そく式【ひょうけんしれいへいそくしき】非自動閉そく方式の一種。従来型の通票に代わってICカードなどの電子媒体が使用され、閉そく取扱駅に到着した列車の運転士は指令員と交信のうえ、駅に設置されたカードリーダーに ICカードをタッチすることによって閉そくが行われる。従来の非自動閉そく方式では閉そく取扱駅(交換可能駅など)ごとに閉そくを取扱う運転要員を配置する必要があったが、この方式では複数の閉そく区間を統括する指令員が列車の運転士との無線交信などを通じて運行状況を把握し閉そくを取扱うため、閉そく取扱駅(交換可能駅)に運転要員を置く必要がない。 非自動閉そく線区において運転要員を増やすことなく閉そく区間を増加させる場合、従来は自動閉そく方式への転換が唯一の選択肢であったが、この方式は自動閉そく化よりも低コストでほぼ同様の効果が得られる点がメリットとなる。全線1閉そくのスタフ閉そく式だった北条鉄道が、法華口駅に交換設備を新設し2閉そく化した2020年6月に全国で初めて導入した。(詳細については後日追記します。)

閉そく【へいそく】正面衝突や追突など列車同士による事故を防止するための、列車運行上最も基本となる運行管理システム。路線をいくつかの区間に分割(全線で1区間の場合もある)し、それぞれの区間に複数の列車を進入させない「1区間1列車」の原則を徹底することにより、列車同士による事故を防止することができる。閉そく方式として人手により閉そくを行う非自動閉そく方式と、人手を介さず列車自体が閉そくを行う自動閉そく方式がある。なお、閉そくは普通鉄道の運行における概念であり、低速で運転される軌道(路面電車)においては閉そくではなく保安という考え方に基づいている。ただし、法的に軌道であっても高速運転を行う事実上の鉄道(名古屋鉄道豊川線、大阪メトロなど)は、当然ながら閉そくに基づき運行される。

併合閉そく【へいごうへいそく】非自動閉そく方式の線区において、2以上の閉そく区間をまとめて1つの閉そく区間とすること。A−B−Cの3駅と2つの閉そく区間(基本閉そく)がある場合、B駅での列車交換がない時間帯に閉そく区間をまとめてA−Cの1閉そく区間とし、B駅の運転扱い業務を休止する。深夜早朝などの列車密度の低い時間帯に駅の運転業務を省略することにより、人員配置の効率化を図ることができる。基本閉そくが連査閉そく式の線区で併合閉そくを実施した場合の閉そく方式は連査閉そく式のまま(票券閉そく式の例もあり)だが、それ以外のスタフ閉そく式票券閉そく式タブレット閉そく式及び連動閉そく式線区では原則として票券閉そく式が用いられる。なお、小坂製錬小坂鉄道などのように基本閉そくと併合閉そくの両方ともタブレット閉そくを施行する事例があったが、双方で異なる種類の閉そく器(基本閉そくは一般的なタイヤー式閉そく器、併合閉そくは大同信号D型閉そく器)と通票を使用することによって区別していた。

保安(軌道)【ほあん】路面電車等の軌道線において車両の運行の安全を確保すること。単線の軌道線において、行き違い可能停留場間の区間(普通鉄道でいう閉そく区間)のことを保安区間、保安を確保する方式(普通鉄道でいう閉そく方式)を保安方式といい、保安方式には自動信号式と通票式がある。軌道は運転士の目視によって運転上の危険を回避できる前提であることから普通鉄道でいう閉そくの概念がなく、1区間1列車の原則もないため、保安区間に対向列車が進入してくるのを防止さえできれば保安の目的は達成される。よって、保安区間においては複数車両による同一方向への続行運転が可能である。

連査閉そく式【れんさへいそくしき】非自動閉そく方式の一種。運転取扱上は連動閉そく式と同じく「玉なし運転」トークンレスができるように開発された閉そく方式で、隣接駅長同士が打ち合わせをして共同で連査閉そく器を操作して閉そくを行う。駅の場内信号機付近に設置されたOT(開電路式軌道回路)及びCT(閉電路式軌道回路)を列車が一定方向に踏むことにより、区間内の列車の有無を連査閉そく器の表示盤で確認できることから、通票のように閉そくを証明する物的証拠を使う必要がない。
連動閉そく式のように閉そく区間全体に連続した軌道回路を設ける必要がない簡便・安価なトークンレス閉そく方式として、国鉄線では1960年頃から実用化され、駅での通票扱いの機会が多い線区、寒冷地や豪雪地の線区など通票扱いに支障のある区間に多く導入されたが、1962年に発生した羽越本線列車衝突事故によって連査閉そく式の致命的とも言える欠陥が露呈したこと、のちに開発された特殊自動閉そく式への転換が容易だったことから急速に姿を消し、JR旅客線上では山田線盛岡−宮古間で2018年3月まで使用されていたのが最後であった。
なお、連査閉そく式線区で
併合閉そくを実施した場合も原則として連査閉そく式であり、 その場合は駅務を休止する駅で閉そく器の配線を操作し、併合閉そく区間の両端の駅の閉そく器同士を直接つなぐ配線に変更される。

連動閉そく式【れんどうへいそくしき】非自動閉そく方式の一種。タブレット閉そく式の考え方を一歩進めて、通票を用いないいわゆる「玉なし運転」(トークンレス)ができるように開発された閉そく方式で、隣接駅長同士が打ち合わせをして共同で連動閉そく器を操作して閉そくを行う隣駅の場内信号機までの閉そく区間全体にわたって連続した軌道回路が設置され、駅の閉そく器の表示盤に隣駅までの区間内の列車の有無が表示されるので、通票のように閉そくを証明する物的証拠を使う必要がなく、閉そく区間の途中で連結が外れるなどして車両の遺留が発生した場合も検知が可能である。これに対し、同様の「玉なし」非自動閉そく方式である連査閉そく式連続した軌道回路を持たず、駅の上下場内信号機付近に設置された短小な軌道回路で列車を検知する点が大きな相違点である。
国鉄線では室蘭本線の一部区間に導入された1943年が初の事例とされているが、少し手を加えれば自動閉そく化が容易であるとともに、連査閉そく式と同様の欠陥が指摘されたこともあって、JR旅客線上からは早々に姿を消してしまった。現在は奥羽本線貨物支線の土崎−秋田港間で使用されているのが国内唯一例である。なお、停車場間に閉そく信号機を設けない自動閉そく式(特殊)はもともと連動閉そく式の一種として開発されたが、1965年正式に自動閉そく方式に仲間入りしている。
なお、連動閉そく式線区で
併合閉そくを実施する場合、 駅を挟んで連続した軌道回線同士を併合することが不可能なことから併合閉そくで連動閉そく式を施行することができないため、票券閉そく式が用いられる。よって、通常は「玉なし運転」の連動閉そく式ではあるが、併合時には列車は通票通券を携帯して走行していた。