新明解通票辞典

腕木式信号機【うでぎしきしんごうき】鉄道に用いられる信号機の一種で、腕木と呼ばれる細長い板を上下に動かすことによって停止あるいは進行を現示する。機械式信号機ともいい、現在のような色灯式信号機が普及する以前の鉄道信号機の主流であった。停車場の信号扱所(てこ小屋)に設置された信号てこと信号機がワイヤーで結ばれており、信号てこの動きをワイヤーで伝達し腕木を上下させるクランク機構を備えていた。腕木が水平の時は停止を示し、これが定位(通常の現示)であるが、信号てこを倒すと腕木が約45度下方に傾き進行を現示する。腕木の回転軸部分の反対側には赤と緑の灯火部分(メガネ)があり、腕木が見えない夜間はこの後部の電球を点灯させることによって色灯式信号機のように信号を現示していた。
腕木を上下させるクランク機構には重錘(おもり)が付いており、
重錘が下がっている状態が定位(停止)であるため、ワイヤーの断裂などで信号機が操作不能となった場合は重錘が下がり安全側の停止現示となるフェイルセーフ設計となっている。
腕木式信号機は可動部のメンテナンスに手間がかかり、ワイヤー伸びや断裂によるトラブルも起こりやすく、
スイッチ操作で電気的に腕木を動かすA型電気信号機が開発されたものの、色灯式信号機の量産に伴って急速に数を減らしていった。JRでは八戸線陸中八木駅のものを最後に全廃され、国内では津軽鉄道に残るのみとなっている。腕木式信号機の種類

キャリア【carrier】通 票授具。通票を収納するバッグに大きな輪(直径20〜40cm程度)を取り付けたもの。皮革製で、輪の芯にはワイヤーが用いられている。円盤状の通票は通常、このキャリアに収納した状態で取り扱われる。通票そのものを知らなくても、駅員と運転士の間でキャリアを受け渡しする光景を見たことのある人は多いはず。この大きな輪は通過授受時の便を考慮したものだが、通過授受が消滅した現在においてはシンボル的な意味しか残っていないものと思われる。

スタフ【staff】通票閉そく器を使用しないスタフ閉そく式で使用される通票のこと。元来は「杖、棒」の意味。現在のスタフはほとんどタブレットと同じ円盤状のもの(材質はアルミやプラスチック等もある)が使われているが大昔の通票は棒状で、リレー競走のバトンのような棒の先に金属板(○□△)を取り付け、その金属板の形で種別を判別していた。 棒状通票はかつての地方私鉄などで多く使用されていたが次々と姿を消し、現在は津軽鉄道と名古屋鉄道築港線のみで現役であり、鉄道史の生き証人ともいえる存在となっている。
なお、運転士が使用する運転時刻表のことをスタフと呼称する場合があるが、当サイトでスタフといえば通票のスタフを指すのでご注意願いたい。


名古屋鉄道築港線で使用されている棒状のスタフ

スタフ閉そく式【すたふへいそくしき】非自動閉そく方式の一種。1閉そく区間に唯一存在する通票(スタフ)を列車に携帯させることで閉そくを確保する。(取扱いミスさえなければ)閉そく区間内に2本以上の列車が入線することがないため追突や正面衝突のおそれはないが、単純なピストン運転しかできず、ダイヤ組成上の制約は非常に大きなものとなる。列車本数が少なく、同方向に続けて列車を出す(続行運転)必要のない線区で使用されている。
スタフ閉そく式(「通票は列車の通行手形」内解説)

続行運転(軌道)【ぞっこううんてん】通票式を 施行している単線軌道線の保安区間において、ひとつの通票を根拠として同一方向へ複数の車両を運転すること。続行運転の先行車両は前面に「続行票」を掲出し続行車両があることを表示するとともに、通票は最後尾の車両が携帯する(例えば3両が続行する場合、1両目が続行票を掲出し3両目が通票を携帯)。このため、先行車両が続行票を掲出するためには、続行最後尾の車両の運転士が通票を所持していることを先行車両の運転士が目視で確認しなければならない。よって、続行票は普通鉄道の票券閉そく式における通券に類似した役割を持っていると考えられる。
なお、続行運転は乗客が多い時の増発とともに、各保安区間の通票の配布と回収を行う際の取り扱いにも利用される。→とさでん交通伊野線における通票式と続行運転

タブレット【tablet】タブレット閉そく器を使用するタブレット閉そく式における通票のことだが、広く通票一般を指す場合もある。直径10cm、厚さ1cm弱の真鍮製の円盤。元来は「錠剤」等の意味で、形状の類似性から。

タブレット折返使用【たぶれっとおりかえししよう】タブレット閉そく式において、列車から駅に渡されたタブレットをそのまま対向列車に渡す取扱い。本来、駅に到着したタブレットはその駅のタブレット閉そく器に すみやかに収納し、タブレットが外に全く出ていない状態を一旦作ってから次の閉そく作業を行う、というのが原則である。しかし列車の行き違いがある場合、タブレットを収納してまた閉そくをやりなおしてタブレットを出す、 という作業をいちいちやっていたのでは作業効率が悪く、時間もかかる。この場合、取扱いにかかる時間が5分以内であれば、列車から受け取ったタブレットを閉そく器に戻すことなく対向列車に渡して出発させるというスタフ閉そく式的な取扱いが行われる。この場合の閉そく作業は、タブレットを折返使用する列車すべてについて一括して閉そくをとる形となり、折返使用中は両駅の閉そく器に「タブレット折返使用中」の札を掲示して一時使用中止状態とする。

タブレット閉そく式【たぶれっとへいそくしき】非自動閉そく方式の一種。複数のタブレットを収めたタブレット閉そく器を各駅に設置し、駅どうしの打ち合わせによって閉そく器からタブレットを取り出して列車に携帯させることで閉そくを確保する。同時に2枚以上のタブレットが閉そく器外に出ないように工夫されており、当該区間のタブレットを持つ列車は1本に限られるため、2本以上の列車が同一区間に進入することはあり得ないということになる。駅同士の閉そく作業により運転方向が設定できるため、ピストン運転しかできないスタフ閉そく式や同一方向への続行運転しかできない票券閉そく式よりもはるかに自由度の高いダイヤ設定が可能である。→タブレット閉そく式(「通票は列車の通行手形」内解説)

玉【たま】通票を広くこう呼ぶ。主に現場での符牒。→トークン

通過授受【つうかじゅじゅ】列車の通過駅において、走行しながら通票の受け渡しを行うこと。通票の受け渡しは列車を駅に停車させて行うのが原則だが、急行・特急などが通票扱い駅を通過する場合は、駅ホーム上に建植されている通票受器に運転士が走行しながら通票(キャリア)を引っ掛け、同じく駅の通票授器にセットされた通票(キャリア)を取り去っていく。俗に「投げ渡し」「すくい取り」と言われていた。かつては各地で当たり前に行われていたが、自動閉そく化の進展と路線の廃止等によって急速に姿を消し、JR上からは1997年、因美線智頭−東津山での急行砂丘を最後に完全消滅した。


通過授受の様子(因美線那岐)

通券【つうけん】票券閉そく式において使用される通票代わりの列車運転許可証。縦10cm×横7cm程度の紙製カードで、通常は通券箱に収納されている。続行運転の必要のある時、駅長は通券箱に通票を挿入して解錠ののち通券を一枚取り出し、日付・列車番号等を記入のうえ列車に携帯させる。なお、駅長は通券を運転士に交付する際に通票も同時に提示しなければならない。そして次駅に到着した通券には大きく×印がつけられ、再使用できなくなる。


津軽鉄道で使われていた通券。赤丸は通票種別(第一種)を表す

通票【つうひょう】鉄道の単線区間において、一閉そく区間内に一列車しか運転を許さないために列車に携帯させる運転許可証票。JR以前の国鉄時代は規則上タブレット閉そく式を「通票閉そく式」、スタフ閉そく式を「通票式」と呼称し、「通票」という言葉はタブレット・スタフの区別なく使用されていたが、現在では厳密には票券閉そく式で用いられる通票のみを「通票」と呼称しているようである。ただし当サイトではタブレット・スタフ・通票の三者の総称として「通票」という語を使用しており、現在の鉄道関係法規や規則等における用語とは一致していないことを付け加えておきたい。

通票受器【つうひょううけき】通過列車が通票を駅に渡す時に用いる補助用具。前駅から持ってきた通票のキャリアをこれに引っ掛けてそのまま通過する。 受器の形状で最も多いのは細い棒が渦巻き状になっている「スパイラル」(俗に「蚊とり線香」)と呼ばれるものだが、近年まで因美線で使用していたものは垂直ポールの先に横にアームが突き出た形になっており、そこに引っ掛けるとキャリアを保持したままアームが下に垂れ下がるという、メカニックな構造のものであった。 →通過授受通票授器

通票授器【つうひょうさずけき】通過列車が通票を駅から受け取る時に用いる補助用具。列車はここに セットされた通票のキャリアを取り去って通過して行く。これは地方ごとにさまざまな形状のものがあった。→通過授受通票受器

通票式(軌道)【つうひょうしき】路面電車等の軌道線における保安方式のひとつ。軌道線の単線区間において普通鉄道と同様の通票を使用して行き違い可能停留場間の区間(保安区間)の安全を確保する方式で、とさでん交通伊野線の朝倉ー伊野間が唯一例として現存している。通票式における通票は保安区間に対向車両が進入して来ないことを保証するだけのものであり、当該区間の通票を根拠として複数車両による同一方向への続行運転が可能となっている。

通票搬送装置【つうひょうはんそうそうち】通票(タブレット閉そく線区の停車場において、閉そく器のある駅本屋から通票授受場所までが相当離れているなどの場合(旅客列車の発着ホームと貨物列車の発着場所が離れている駅など)、いちいち通票を持ち運ぶ不便を解消するために考案された装置あるいは取扱いのこと。通票搬送装置という特別な機器があるわけではなく、駅本屋と授受場所との間にもう1組の同一種別の通票閉そく器(搬送用)を設置し、駅本屋で取り出した玉を搬送用閉そく器に収めて閉そく作業を行って発着場所で玉を取り出して列車に渡すという、いわば通票の「バーチャル搬送」とも言うべき、閉そくの原則からすればやや危なっかしい取扱いである。
詳しくは特設ページ通票搬送装置を参照されたい。

トークン【token】通票を広くこう呼ぶ。元来は「記念品、代用貨幣」の意味。かつては連査閉そく式・連動閉そく式などの通票を用いない非自動閉そく方式を「トークンレス」と言っていた。→

票券閉そく式【ひょうけんへいそくしき】非自動閉そく方式の一種。1閉そく区間に唯一存在する通票のほか、閉そく区間両端の駅には「通券箱」に収められた「通券」が備え付けられている。両駅で打ち合わせすることにより通票を持つ側の駅で通券を発行して列車に携帯させ、その続行列車に通票を携帯させることによって、同一方向への続行運転が可能である。スタフ閉そく式同様、運転本数の少ない線区で使用されている。票券閉そく式(「通票は列車の通行手形」内解説)

票券指令閉そく式【ひょうけんしれいへいそくしき】非自動閉そく方式の一種。全線1閉そくのスタフ閉そくだった北条鉄道が、法華口駅に交換設備を新設し2閉そく化した2020年6月に全国で初めて導入した。従来の非自動閉そく方式では閉そく取扱駅(交換可能駅など)ごとに閉そく取扱要員を配置する必要があったが、この方式では複数の閉そく区間を統括する指令員が列車の運転士との無線交信などを通じて運行状況を把握し閉そくを取扱うため、閉そく取扱駅(交換可能駅など)に閉そく取扱要員を置く必要がない。非自動閉そく線区において閉そく取扱要員を増やすことなく閉そく区間を増加させる場合、従来は自動閉そく化が唯一の選択肢であったが、この方式は自動閉そく化よりも低コストでほぼ同様の効果が得られる点がメリットとなる。
票券指令閉そく式では従来型の通票(トークン、玉)に代わってICカードなどの電子媒体が通票として使用される。北条鉄道の事例では、閉そく取扱駅に到着した列車の運転士は指令員と交信のうえ、駅に設置されたカードリーダーに
ICカードをタッチすることによって閉そくが行われる。(詳細については判明次第追記します。)

併合閉そく【へいごうへいそく】非自動閉そく線区において、2以上の閉そく区間をまとめて1つの閉そく区間とするこ と。A−B−Cの3駅と2つの閉そく区間がある場合、  B駅での列車交換がない時間帯に閉そく区間をまとめてA−Cの1閉そく区間とし、 B駅の運転扱い業務を休止する。深夜早朝などの列車密度の低い時間帯に駅業務を省略することにより、人員配置の効率化を図ることができる。連査閉そく式線区で併合閉そくを実施した場合の閉そく方式は連査閉そく式のままだが、それ以外のスタフ、票券、タブレット、連動閉そく式線区では票券閉そく式が用いられる(例外もある)。

保安(軌道)【ほあん】路面電車等の軌道線において車両の運行の安全を確保すること。単線の軌道線において、行き違い可能停留場間の区間(普通鉄道でいう閉そく区間)のことを保安区間、保安を確保する方式(普通鉄道でいう閉そく方式)を保安方式といい、保安方式には自動信号式と通票式がある。軌道は運転士の目視によって運転上の危険を回避できる前提であることから普通鉄道でいう「閉そく」の概念がなく、1区間1列車の原則もないため、保安区間に対向列車が進入してくるのを防止さえできれば保安の目的は達成される。よって、保安区間においては複数の同一方向への続行運転が可能である。

連査閉そく式【れんさへいそくしき】非自動閉そく方式の一種。タブレット閉そく式の考え方を一歩進めて、通票を用いないいわゆる「なし運転」ができるように開発された閉そく方式。駅の上下場内信号機付近に短小な軌道回路を設置し、それを列車が踏むことによって駅の閉そく器の表示盤に隣駅までの区間内の列車の有無が表示される。この表示に従って駅長同士で閉そく作業を行い、信号てこを操作する。連査閉そく式は閉そく区間における列車の有無が閉そく器の表示で確認できるため、通票のように閉そくを証明する物的証拠を使う必要がない。 通票扱いの機会の多い線区、寒冷地や豪雪地の線区など通票扱いに支障のある区間に多く導入されたが、1962年に発生した羽越本線列車衝突事故によって連査閉そく式の致命的とも言える欠陥が露呈したこと、のちに開発された特殊自動閉そく式への改良が容易だったことから急速に姿を消し、JR旅客線上では山田線盛岡−宮古間で2018年3月まで使用されていたのが最後であった。
なお、連査閉そく式線区で
併合閉そくを実施した場合も連査閉そく式で閉そくが行われるが、 その場合は駅務を休止する駅で閉そく器の配線を操作し、併合された閉そく区間の両端の駅の閉そく器同士を直接つなぐ配線に変更される。

連動閉そく式【れんどうへいそくしき】非自動閉そく方式の一種。運転取扱上は連査閉そく式とほぼ同じ「なし運転」方式だが、連査閉そく式が駅の両端に短小な軌道回路を設置しているだけなのに対し、当方式では隣駅場内信号機までの閉そく区間全体にわたって連続した軌道回路を形成している点が異なっている。 よって、閉そく区間の途中で連結が外れるなどして車両の遺留が発生した場合は検知することが可能だが、連査閉そく式と同様の欠陥が指摘されるとともに、少し改良すれば自動閉そく化が容易であることなどの理由により、JR旅客線上からは早々に姿を消してしまった。現在は奥羽本線貨物支線の土崎−秋田港間で使用されているのが国内唯一例である。
なお、連動閉そく式線区で
併合閉そくを実施する場合、 連続した軌道回線同士を駅を挟んで併合することができず、併合閉そくで連動閉そく式を施行することができないため、票券閉そく式が用いられる。よって、通常は「玉なし運転」の連動閉そく式ではあるが、併合時には列車は通票や通券を携帯して走行することとなる。