エレガントな非自動的珍物件 通票搬送装置

【新明解通票辞典から】
通票(タブレット閉そく線区の停車場において、閉そく器のある駅本屋から通票授受場所までが相当離れているなどの場合旅客列車の発着ホームと貨物列車の発着場所が離れている場合など)、いちいち通票を持ち運ぶ不便を解消するために考案された装置あるいは取扱いのこと。
通票搬送装置という特別な機器があるわけではなく、駅本屋と授受場所との間にもう1組の同一種別の通票閉そく器(搬送用)を設置し、駅本屋で取り出した玉を搬送用閉そく器に収めて閉そく作業を行って発着場所で玉を取り出して列車に渡すという、いわば通票の「バーチャル搬送」とも言うべき、閉そくの原則からすればやや危なっかしい取扱いである。

早い話が「閉そく器から列車までが遠くて受け渡しのたびにいちいち通票を運ぶのしんどいからラクしよう!」的装置です。

A駅の構内があまりに広大で、駅本屋から旅客列車ホームは近いけど貨物列車の発着場所までかなり遠い場合を想定します。
A駅には、B駅との閉そくを取り扱う閉そく用閉そく器(ヘンな言葉…)と、搬送用閉そく器1組a及びa'が設置されています。A駅ーB駅間の通票種別を第一種●とすると、
搬送用閉そく器にも同じく第一種●を使用します。
なお、搬送用閉そく器a及びa
'の下部引手(通票の取り出し口)は半開または全開を定位とします(つまり、常時通票が外に出ている状態にしておく)。



A駅の貨物列車発着場(搬送用閉そく器a'設置位置)から列車をB駅へ発車させる場合
(1)A駅ーB駅間で閉そくを行い、A駅閉そく用閉そく器から通票を取り出す。
(2)
(1)の通票を搬送用閉そく器aに収めたのちaーa'間で閉そくを行い、a'から通票を取り出して列車に渡し発車させる。
(3)列車がB駅に到着後、B駅閉そく器に通票を収め、A駅ーB駅間の閉そくを解除する。

B駅から列車をA駅の貨物列車発着場へ発車させる場合
(1)A駅ーB駅間で閉そくを行い、B駅閉そく器から通票を取り出し、列車に渡す。
(2)
列車がA駅の貨物列車発着場に到着後、通票を閉そく器a'に収めたのちaーa'間で閉そくを行い、aから通票を取り出してA駅閉そく用閉そく器に通票を収め、A駅ーB駅間の閉そくを解除する。


当サイト線区別通票種別一覧及びnon-automaticな風景の越美北線の項に、かつて同線の始発駅だった南福井駅(貨物駅)と事実上の始発駅だった福井駅との間で通票搬送装置を使用していた例を挙げていますが、この場合を上図に当てはめますと、
A駅
南福井駅
搬送用閉そく器設置場所a'=福井駅
B駅
越前東郷駅当時の次の閉そく扱い駅)、となります。
南福井駅は
北陸本線から越美北線を分岐する分岐駅ですが、貨物駅のため構内が広く駅本屋から越美北線列車の走行線まで距離があること、通票を渡すために一旦列車を停めなければならないことなどの理由から、通票搬送装置が採用されたものと考えられます。
ただし、閉そく区間はあくまでも南福井ー越前東郷間であるため、搬送装置により福井駅で授受される通票は、福井ー南福井間の走行中は「合法的な通票持ち越し(託送)」という扱いになっていたものと思われます。


【この他の搬送実例】
『さよなら腕木式信号機&タブレット』でおなじみの写真家・KIMIJIさんのブログに「昭和6,7年頃、大鉄局管内においてA駅−B駅の間で途中分岐」していたケースで通票搬送装置を使用していた実例が紹介されています。
普通、閉そく区間本線の途中で線路を分岐させる必要がある場合は、その分岐の転轍機に「通票鎖錠装置(タブレットロック)」を設置し、当該区間の通票をはめ込むことによって転轍機の鎖錠を解除し転換する方式をとっていました。
この方式だと、通票を持ったまま分岐先へ行った列車が再び閉そく扱い駅に戻るまで当該区間本線に列車を走らせることができないので、これによる支障を解消す るため、分岐点に搬送用閉そく器を設置し通票搬送装置を構成することによって(多少でも)本線の列車運転を確保する方策をとっていたとのことです。

上図と同様に、
A駅には、B駅との閉そくを取り扱う閉そく用閉そく器と搬送用閉そく器a、C分岐にはタブレットロック付き転轍機と搬送用閉そく器cを設置します。



A駅から発車させた列車をC分岐で分岐させる場合
(1)A駅ーB駅間で閉そくを行い、A駅閉そく用閉そく器から通票を取り出して列車に渡し
C分岐に向けて発車させる。
(2)
列車がC分岐に到着後、C分岐職員は通票を受け取りタブレットロックを解錠して転轍機を転換し、列車を分岐方面へ進入させる。
(3)列車が分岐方面に去った後は転轍機を定位に戻し、タブレットロックから通票を取り出して搬送用閉そく器に収めaーc間で閉そくを行う。A駅では搬送用閉そく器aから通票を取り出して閉そく用閉そく器に収め、A駅ーB駅間の閉そくを解除する。
・・・これにより、
A駅ーB駅間に列車を運転することができます

分岐先から戻ってきた列車をA駅へ発車させる場合
(1)A駅ーB駅間で閉そくを行い、A駅閉そく用閉そく器から通票を取り出して搬送用閉そく器aに収め、aーc間で閉そくを行う。
(2)C分岐職員は搬送用閉そく器から通票を取り出しタブレットロックを解錠、転轍機を転換して列車に分岐を通過させ、本線上に出たところで停止させる。
(3)C分岐職員は転轍機を定位に戻し、タブレットロックから通票を取り出して列車に渡しA駅に向けて発車させる。列車がA駅到着後、駅閉そく用閉そく器に通票を収め、A駅ーB駅間の閉そくを解除する。


通票搬送装置・・・
非自動全盛だったアナログな時代、通票をバーチャル搬送してしまおうというエレガントな発想が生まれていたことに、本当に驚きを禁じ得ません。
しかし、列車を発車させる物的根拠である通票の、一時的とはいえ実体を消滅させてしまうことになることに多少の引っ掛かりがあるんですよね…
しかも、
閉そく用閉そく器との連動も鎖錠関係も何もない搬送用閉そく器が、何かの弾みで両方とも定位(閉そくされていない状態)になってしまえば、本線が閉そくされてなくても列車を出発させることができるんです…
その点はどうだったんでしょうか、気になって仕方ありません…