とさでん交通伊野線における通票式と続行運転

 高知市内及び近郊を走るとさでん交通伊野線は鏡川橋ー伊野間が単線であり、その末端部分の朝倉ー伊野間では国内唯一となった軌道線の保安方式「通票式」が施行されています。

<軌道線の保安区間保安方式について>
 路面電車等の軌道(*1)は普通鉄道に比べ低速運転(最高速度40km/h)であり、運転士の目視によって運転上の危険を回避できる前提であることから普通鉄道でいう「閉塞」の概念がありません。何両もの路面電車が間隔を詰めてゾロゾロと連なって走行している光景が見られるのはこのためです。
 軌道線の単線区間において、行き違い可能停留場間の区間(普通鉄道でいう閉塞区間)のことを保安区間、保安を確保する方式(普通鉄道でいう閉塞方式)を保安方式と呼んでいます。保安方式には自動信号式と通票式があります。

 伊野線鏡川橋ー伊野間の保安方式は上図のとおり、鏡川橋ー朝倉間が自動信号式、朝倉ー伊野間が通票を用いる通票式です。通票式区間の朝倉ー中山交換所間の通票は▲、中山交換所ー伊野間の通票は◎(楕円)と定められており、それぞれの区間に応じた通票を携帯する車両が運転を許される仕組みとなっています。

 通票式は、普通鉄道でいうスタフ閉塞式あるいは票券閉塞式に類似した保安方式で、対向車両が同一保安区間内に進入できない点は普通鉄道と同じですが、軌道線における通票は対向車両が来ないことを保証するだけのものであり、同一方向なら一つの通票を根拠に複数車両の続行運転をすることが可能です(普通鉄道は1閉塞区間1列車が鉄則なので、先行列車が閉塞区間から出ない限り続行運転ができません)。なお、通票式区間で続行運転を行う場合は、先行車両が前面に続行票を掲出し、通票は続行最後尾の車両が携帯します(←ココ大事です)。対向車両は続行最後尾の車両から通票を受け取り発車します。

 上図の5つの停留場は、鏡川橋に駅長が配置されている以外全て無人停留場です。普通鉄道なら通票の授受は必ず駅員の手を介さなければならない(*2)ことになっていますが、軌道線に関しては当サイト伊野線ページのように、運転士同士で授受を行なうことが認められています。

 このように、運行時間内は運転士同士で通票を取扱いますが、運行時間が終わると通票をどこかで保管しておく必要があります。伊野線の場合、車両が運行されていない時間帯には駅長のいる鏡川橋で通票を保管しています。では、通票式区間から離れている鏡川橋から通票式区間内の車両にどうやって通票を渡し、そして運行終了時にはどうやって通票を回収しているのでしょうか?

 ここで登場するのが続行運転です。

【続行運転を利用した通票の配布と回収】
 では、朝倉ー中山ー伊野で使用される2種類の通票は鏡川橋からどのようにして各区間に配布されるのか、またどのようにして回収されるのかをダイヤグラムの形で描いてみました。下図をご覧ください(平日用ダイヤをもとに作成)。

 なお、現地での運用については『さよなら腕木式信号機&タブレット』(君島靖彦著、現代企画室)の資料編を参考にさせていただきましたが、現在(2017/9現在)は若干ダイヤが変わっていますので、以下は管理人よんかくの推測も交えて記載していることをご了承願います。

<下図の見方>(◎は中山ー伊野間の楕円通票を表す)
赤の▲と◎…通票の動き
橙色の▲と◎…通票の搬送(当該区間の保安には関与しない)
黄色の丸に「続」…続行票の動き
橙色の丸に「続」…続行票の搬送(当該区間の保安には関与しない)
緑の▲と◎…保安区間の併合時の通票の動き


<解 説>
1 午前5時49分、鏡川橋発伊野行が2両続行(上図先1・続1)で発車。先1は続行票を掲出し、続1は2種類の通票▲◎を鏡川橋駅長から受け取って朝倉まで搬送(運転には使用せず、ただ持ち運ぶだけ)。同時に、朝倉ー伊野間の2保安区間を併合し1保安区間とする旨の通告書を駅長から受け取る。
2 先1・続1が朝倉に到着。先1は続行票を前面に掲出朝倉ー伊野間は保安区間併合のため、続1は2種類の通票▲◎を運転席に置き伊野まで運転。
 先1・続1が伊野に到着。続1は先1から続行票を受け取って掲出し、鏡川橋方面行車両2として出発。同時に、中山ー朝倉間通票▲を中山まで搬送。
4 車両2が中山に到着。続行票を取り外して鏡川橋まで搬送。通票▲を運転席に置き朝倉まで運転。
5 車両2が朝倉に到着。対向車両の伊野行車両3に通票▲を渡す。鏡川橋到着後、搬送の続行票を駅長に返却。
6 伊野で停車中の先1が通票◎を持って鏡川橋方面行車両4として伊野を出発(車両2の続行は車両4、という関係。中山で伊野行車両3と通票◎・▲を授受し朝倉まで運転(以上で通票▲と◎がそれぞれの区間に配布されました)


 なお、続行運転の先行車両が続行票を掲出するためには、続行車両の運転士が通票を所持していることを先行車両の運転士が目視で確認しなければなりません(通票の根拠なく続行票だけで運行することを防止するため)。つまり、続行票は普通鉄道の票券閉塞式における通券のようなものと考えればよいでしょう。
 
 では、運転終了前の通票の回収はどうするのでしょうか。これは上図を見ながら皆さんで考えてみてください(解答はそのうちアップする?かも)。

 なお、運転間隔の関係で朝倉で行き違いをしない(通票授受がない)運用が3往復あるあります。これについては、通票は朝倉ー市場前間を持ち越し搬送という扱いにして、自動区間内の市場前で通票授受をしているそうです(お稲荷どっとこむのてるさんから情報をいただきました)。

<この他の通票式区間における取扱いについて>
 伊野線の他に有名な
通票式の軌道線としては、今はなき名古屋鉄道岐阜市内線・美濃町線・田神線が挙げられるでしょう。
 こちらは行き違い可能停留場が多く、使用される通票の数は美濃町線競輪場前ー新関間だけで6種類(1999年3月まで)もあったため、始発付近での通票の配布と終発付近での通票の回収には、伊野線では見られない保安取扱者の添乗、通票3枚見せ(1999年3月までは6枚見せ)、玉運び車両など、続行運転と保安区間併合をフル活用した複雑な方法が用いられていました。
 その詳細については前述の『さよなら腕木式信号機&タブレット』及び同書著者のサイトをご参照ください。

(*1)軌道法に基づいて敷設された軌道線のことですが、普通鉄道と同規格で高速運転を行う「軌道」もあります(大阪市営地下鉄、名古屋鉄道豊川線など)。
(*2)
かなり以前に廃線となった某電鉄(普通鉄道)で、運転士同士が通票授受を行っているところを撮り鉄に撮影され雑誌で発表されてしまったために当時の運輸省から大目玉を喰らい、以後鉄道ファンを敵視するようになったという悲しい出来事があったように聞いたことがあるような気がしますが…