通票は列車の通行手形
通票は列車の 通行手形 通票は列車の 通行手形 通票は列車の 通行手形 ああ通票よ こんどは逆向きの 列車に迎えられ 決して華やかな 役回りじゃないけど |
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かつて、ローカル線などに乗ると駅ごとに駅員と運転士が
「輪っか」のようなものをやりとりしているのを
ごらんになったことがあるかも知れません。
あれは別に運転士に手紙をことづけたり差し入れをしたりしているわけではなく、
列車の運転のための重要な作業を扱っている姿なのです。
「輪っか」…正確にはあの「輪っか」は持ち運びのためのカバンみたいなもので
輪っかの下部の収納部に入っている「玉」が主人公…
この「玉」こそ、列車の通行手形とも言うべき通票です。
玉と言っても球形ではなく、ちょっと厚めの金属製円盤で、
中央に穴があいていたり、縁に切り欠きがあったりします。
最近では列車運行システムの近代化により信号や保安設備が整備され、
このような通行手形を使っている路線は、現在ではほとんどなくなってしまいました。
では、昔はなぜこんなものが列車の運転に必要だったのでしょうか???
それを知るためのキーワードが「閉塞」です。
閉塞という言葉を御存じの方は多いですよね。ただし「閉塞感」とか「腸閉塞」とか、
あまり良い意味の言葉はありません。
しかし、鉄道でいう閉塞は、それ無しでは列車を走らせることができないというくらい
とても大切なことがらです。新幹線も閉塞を根拠に運行されています。
さて閉塞とは何ぞいや???
ちょっと堅い話になりますが、読んでいただければ幸いです。
単線区間を安全に走るには
単線区間における列車の運行は、「正面衝突」と「追突」の危険との戦いでもあります。これらの危険を回避するため、鉄道では閉塞という考え方をもとに運行上の安全を確保しています。
閉塞…路線をいくつかの区間に区切り、一区間内に2本以上の列車を同時に進入させないよう、列車運行を管理すること。
複線区間では先行列車との間隔を保つようにすればよいが、単線区間では対向列車との関係も考慮しなければならない。
単 線区間では原則として、列車の行き違い(交換)の可能な駅どうしの間を1つの閉塞区間としています。つまり交換可能駅間には上下いずれか1本の列車しか走 れないようにしているわけです。そして、ある区間が閉塞されている(その区間内に列車がいる)か開放している(列車がいない)かは、閉塞区間の入り口に 建っている出発信号機の現示で知ることができ、列車はこれに従って出発するかしないかを判断します。
下図において、上り列車がA駅に進入する場合、列車はA駅構内の入り口に建っているA駅上り場内信号機で進入の可否を見ます。
A駅構内に先行の上り列車がいる場合、A駅上り場内信号機は停止現示(赤)となり、A駅に入ることはできません。先行列車がA駅構外へ進出すれば場内信号機の現示が変わり、A駅に進入することができます。
A駅上り出発信号機は、A駅とB駅との間(閉塞区間)に列車がいないことを検知し、運転方向をA駅→B駅に設定すれば進行現示(青)となり、B駅に向けて列車を発車させることができます。
このとき、B駅下り出発信号機は、上り列車が到着するまで停止現示(赤)となります。このように、駅間(閉塞区間)に2本以上の列車を入れないようにして安全を確保しています。
(なお、単線自動閉塞方式では、駅間にも閉塞信号機を設置することによって駅間を複数の閉塞区間に分割している場合があります。こうすると、同一方向に列車を続行運転することが可能になります。)
閉塞を確保するには
では、単線区間ではどのような方法で閉塞を実施しているのでしょうか。
単線区間での閉塞方式
自動閉塞方式(単線自動、特殊自動)
…軌道回路によって自動的に列車の走行状況を検知し、閉塞を行う方式
非自動閉塞方式(タブレット、票券、スタフ、連査、連動)
…各交換可能駅の駅長が、隣駅との打合せ等の取扱いによって閉塞を行う方式
自動閉塞方式は、列車の車輪がレールを短絡することで構成される軌道回路により、閉塞区間内の列車の有無を検知し区間の開閉を把握して信号を現示する、技術的に高度でかつ合理的な方式です。ほとんどの場合、自動閉塞方式にはCTC(列車集中制御装置)が併設され、運転指令所で全駅全区間における運転方向の設定、信号現示や転轍機の転換を行っています。現在ではJR・私鉄を問わずほとんどの線区が自動閉塞方式とCTCによって運行されています。
一方非自動閉塞方式は、駅長どうしの通信によって区間の開閉状況を確認し信号を操作するという人手に頼った方式で、古くから列車の安全運行を守ってきました。
通票は、非自動閉塞方式において区間の閉塞が完了している状態(その区間には他の列車は絶対入って来ない状態)であることを示すために列車に携帯させる、一種の通行手形です。
非自動閉塞方式と通票
お待たせしました、いよいよ列車の通行手形である通票の出番です。
通票は直径10センチ、厚さ7ミリ程度の真鍮製の円盤で、下の4つの種類があり、中央の穴の形で種類を区別します。
ここにA〜Dの4つの駅があると仮定して、
と
いう具合にそれぞれの駅間ごとに通票の種別●、▲、■などが定められており、その種別の通票を駅長からもらった列車だけが運転を許されるというルールに
なっています。たとえばB駅とC駅の間を運転しようとすれば■(第2種)の通票をB駅長またはC駅長からもらわなければならない、という具合です。通票は
その駅間でただ1つしか使用できないシステムになっているため、列車は通票を受け取ることにより独占的に次駅まで運転することができ、他の列車による正面衝突や追突の危険を回避しています。
1984年 工臨の時刻表 |
この写真は、1984年当時の可部線(広島県)の運転士用時刻表です。各駅名の間に赤で●やら▲やらと記入してありますが、この記号がその駅間に対する通票の種別を表しています。 |
票券閉塞式…通票をただ1つだけ用意し、通票代わりの「通券」と併用する方式
スタフ式と同様、B,C両駅間には■の通票がただ1つあるだけです。ただし両駅には通票の代わりとなる「通券」が備え付けられています。
B→Cへ2本続けて運転する場合は、B駅長は先発の列車に通票を提示しながら通券を渡して出発させます。C駅に通券が到着すればC駅長はB駅長に電話で「通券が着いた」旨を通知し、その通券には×印を付けて使用不能とします。そしてB駅では後発の列車に通票を持たせ、あとはスタフ式と同様の運転を行います。
通券を収めている「通券箱」(右下写真)は通票を鍵として開く仕掛けになっているので、通票を持っている側の駅だけが通券を発行できるようになっていま
す。続行運転のできないスタフ式の欠点をカバーするために考えられた方式ですが、これも列車本数の多い線区には向いていません。
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通券箱(2000/8/13 交通科学博物館) |
タブレット閉塞機の具体的な取り扱い方法についてはこれがタブレット閉塞機だをご参照下さい。