日  程 2005年7月29〜8月2日

目  的 北海道内の全非自動閉塞区間と全信号場めぐり


家を出て数時間後にはこんなところを(新狩勝付近)

1日目(7/29・金)
自宅−関西空港−帯広空港−広内信−新狩勝信−西新得信−上落合信−東占冠信−滝ノ沢信−ホロカ信−トマム

さぁ、北海道!と朝6時半に目を覚まし、身支度を整え、家族にバイバイして家を出る。妻子持ちなのになぜ一人旅なんかできるのかとよく聞かれるが、毎年この時期は妻が実家帰りするのが通例となっていて、その間に私は濃い旅行をするという形がいつの間にか出来上がっている。まぁ少なくとも妻には半分呆れられているのは事実のようだが、そんなわけでとりあえずは家族と妻の実家に感謝しておこう。
関西空港からわずか2時間弱のフライトでとかち帯広空港着。空は厚い雲に覆われている。前線の影響でこの5日間に晴天はあまり望めないとは聞いていたが、早速こんな天気では久しぶりに北海道に降り立った感激も大いに減殺されてしまう。
初日の今日はレンタカーを借りて走り回ろうと思う。幅の広い道道を北西に進んで芽室方面に向かう。芽室市街のスーパーで弁当を調達し、ここからは国道38号線でひたすら新得を目指す。
最初の訪問地である
西新得広内新狩勝信号場は1/25,000地形図にもちゃんと記載されていて、道もほぼ直線で分かりやすい。まず広内を訪れるべくまっすぐな道をひた走っていたら、途中であっけなく舗装が切れて砂利道となる。全線舗装ぐらいしてあるだろうと思っていたのが甘かった。ガタガタと低速で走りながら次第に焦り始めてきたところで根室本線のガードに突き当たる。途中で左折するのを忘れていた。さらに焦ってUターンし、砂利道同士の交差点を右折し南進する。

お天道さんを恨んでも仕方ないが(新狩勝)

根室本線のガードをくぐって信号場の脇に差しかかるとトラックが1台止まっていて、その横でおっさんがタバコをふかしながらこっちを睨んでいる。クルマを停め、信号場の方へ歩こうとすると「どこ行く?!」ほらきた…しかしここで誤魔化しても仕方ないので正直に「列車の写真を撮りに来ました」と言うと、「こっち、クルマでも行けるよ」と教えてくれるではないか。礼を言ってクルマに戻り、両側から草が伸び放題に伸びている道をしばらく進んで広内信号場横に乗り入れる。
広内で30分程度滞在して戻るとまだトラックとおっさんがいる。もう一度会釈して来た道を戻り、南北方向の道路に出て次なる新狩勝信号場に向かう。しかしあのおっさん、あんなところで一体何をしていたんだろうか。
まっすぐな砂利道がどこまでも続く。地図上ではきれいな直線だが実際はかなりアップダウンがあり、お世辞にも走りやすい道とは言えない。新狩勝に近づくにつれ道端の雑草の茂り方もひどくなってきたところで、地形図どおり鋭角の分岐点を曲がってしばらく進むと信号場の前に出たが、木々と雑草に囲まれたまぁなんともえらい所だ。しかも熊の気配が匂い立つように濃厚な場所である。芽室で買った弁当を車中で食べた後、カメラを手におそるおそる外に出る。もちろん、事あらばすぐクルマに逃げ込める態勢は取っている。
前方の草むらがガサガサッと揺れる。やばい!と一瞬身構えたが、出てきたのはキタキツネだった。キツネと言えばきつねうどんぐらいしか連想できない私にとっては、しかしこれでも十分驚きの対象である。カメラを向けると、キタキツネはくるりと背を向けて再び雑草の中に消えた。

広大な農地の真ん中に謎の建造物?(西新得)
小雨そぼ降る新狩勝で貨物を含む3列車を撮ったのち、急いでクルマに戻り脱兎のごとく撤退した。次の西新得信号場は山を下りた平地にあるので熊出没の危険も少なそうだ。信号場のスノーシェルターの真下を道路がくぐるという構造が一風変わっている。
「とかち」の通過シーンを撮って西新得を後にし、新得から国道で狩勝峠に向かって走る。6合目あたりにある駐車場から眺めると、雲か霧か分からないが下界は真っ白で何も見えない。かつて日本三大車窓に数えられた根室本線旧線の雄大な眺めが少しでも味わえるのではと期待していた私は大いにがっかりしたが、そればかりか8合目まで来ると霧がさらにひどくなり、ライトを点けているが数メートル先も見えない。こんな手探り状態でハンドルを握っていると全く生きた心地がしない。
サミットを越えて落合方へしばらく行くと霧は晴れ、そのかわり雨がやや強くなってきた。落合の手前で左折し、根室本線と石勝線の合流点である上落合信号場に向かう。信号場そのものは新狩勝トンネルの中なので実地踏査不能だが、地形図ではトンネルの2つの入口の間に信号場小屋らしき建物が確認できる。その入口の道路脇にクルマを止め、傘を片手に建物を見に行く。信号場名の表示も何もなかったが、建物の造りからして継電器室に間違いない。しばらくあたりをうろついているとトンネルから轟音が響き、石勝線側へ貨物列車が走り出てきた。
カーブの多い道道を石勝線とよじれ合いながら南下し串内信号場横に差しかかる。ここは明日訪れる予定なので今日のところはパスし、とにかく明るいうちに行けるところまで行くことにしよう。

なーんも見えんやないかい!(狩勝峠)
トマム駅を過ぎ、ひとつ追分方にあるホロカ信号場に向かおうとしたが、現在この近辺は北海道横断自動車道の建設工事の真っ最中で、信号場への入口近くにある工事車両進入路にはダンプカーが鈴なりになっている。こんな状態ではとても近寄れないので後回しとし、その隣の滝ノ沢信号場へと走る。手製ダイヤグラムによるとここで15分程度待てば下り「スーパーおおぞら」が通過するはずで、すでに下り出発信号は進行を現示していたが、日も随分かげってきたので、信号場のたたずまいを数枚撮影してからクルマに乗り込んで東占冠信号場へ向かう。東占冠に到着するとまもなく「Sおおぞら」がフルスピードで駆け抜けていった。
先ほど行きそびれたホロカ信号場は、宿泊地であるトマムへ戻る途中に訪問した。結局今日は日光に恵まれることなく、天候不良で消化不良のまま終わってしまった。
言うまでもなくトマムは道内有数のオシャレなリゾート地であり、不惑のおっさんの私には全く似つかわしくない場所なのだが、明日の予定との絡みでここに泊まらざるを得ない。とはいえアルファリゾートみたいな高級どころには手が届かないので、宿泊予約サイトで見つけたペンション風の小さなホテルに投宿する。
ホテルの夕食はジンギスカンで、カップルやグループ客に混じってひとりわびしく鉄板をつつく。あっという間に肉をひと皿平らげてしまったので、もう一人前追加注文して黙々と食べ続ける。私にとって北海道といえば澄みきった青空というイメージが強いので、この天気ではどうも北海道に来たという感慨に乏しい。外に出ても何もないから部屋に戻って寝転がっていると、窓を叩く雨音が次第に激しさを増してきた。

4ケタ道道(串内付近)

2日目(7/30・土)
トマム−串内信−狩勝信跡地−平野川信−上芽室信−帯広−釧路−札幌

なぜか早朝4時半に目が覚め、そしてなぜか串内信号場が異様に気になってきた。今日の11時ごろまでに帯広に戻らなければならず、その間に狩勝信号場跡地と串内・平野川・上芽室信号場を回らないといけないのだが、ちょっと時間的に余裕がないなと思った私は反射的に部屋を出て、まだ朝日の昇りきっていない中、クルマを駆って串内へ向かった。
昨夜の雨がまだ残っており、傘を片手に写真を撮る。今は5時過ぎ、旅客列車はまだ来ない時間帯だが、下り出発信号が進行現示になり、ほどなくDD51牽引のコンテナ列車が通過していった。
まだ眠たいのでホテルに戻って少し横になり、朝食と身支度を済ませて出発したのが7時40分。クルマのほとんどいない快適な道を飛ばして一気に狩勝峠へと向かう。運良く雨は上がり、晴れ間も見えてきた。ここでは旧線の狩勝信号場跡を探訪しようと思うのだが、まずどこから現地に入って行ってよいのか地形図を見ても皆目分からない。道はあるのかも知れないが、国道沿いは茂り放題の雑草に覆われて何がなんだか見当もつかない。結局国道から一歩も外れることが出来ずに、このあたりかなぁと思われるところを遠回しに写真撮影するほかなかった。狩勝跡地の探訪は草木の少ない季節でないと難しいかも知れない。


このひょろ長い植物は何? 信号場でよく見かけたのだが(平野川)
狩勝峠の展望台で一休み。晴れてはいるが、霧のせいでまたもや眺望がきかない。以前に日勝峠を通ったときも霧がかかっていたし、美幌峠も霧だった。どうも北海道の峠とは相性がよくない。
峠を下り、平坦に戻った国道をたどって平野川信号場へと向かう。農道の踏切横から線路沿いに信号場小屋への道が伸びているのだが、幅員はクルマ1台分くらいあるものの、例によって雑草が派手に生い茂り、道の中央部も雑草で盛り上がっているため、とてもクルマを乗り入れられない。200メートルほど歩いて信号場小屋に出る。
ダイヤを見るとそろそろ下り「Sおおぞら」が通過するはずだが、遅れているのかなかなか来ない。あきらめて引き上げかけると、
前方の草むらがガサガサッと揺れる。やばい!と一瞬身構えたが、出てきたのはタヌキだった。タヌキと言えばたぬきそばぐらいしか連想できない私にとっては、しかしこれでも十分驚きの対象である。とさっきも同じようなことを書いた覚えがある。
結局クルマに戻りかけたところで踏切が鳴りだし、列車が通過していった。踏切はかろうじて信号場の分岐の内側にあるので、ここで撮った写真も「信号場写真」ということで大目に見てもらおう。時刻はちょうど9時、なかなかいいペースだ。
次は
上芽室信号場。ここも農道の踏切横から信号場に向かって線路沿いに道が伸びていて、平野川ほど荒れてはいないのでクルマを乗り入れることにする。とはいえ結構な凸凹道なのでゆっくり走らなければならない。あと50メートル、というところで道の凸凹が一層酷くなっていたので、そこからは歩くことにした。空はすっきりと晴れ上がっている。

見えにくいが「狩勝」の愛称板(上芽室)
上芽室では下り普通と上り快速「狩勝」との交換がある。まず「狩勝」の姿が遠くに見え始め、構内に入ったところで今度は単行の下り普通がやってきた。ほぼ同時進入と言ってよいタイミングで、これが所定ダイヤだとすればなかなか素晴らしいスジだと感心するところだが、私の手製ダイヤでは下りが先に来て「狩勝」の通過を待つことになっていて、平野川での「Sおおぞら」の遅れといい下りのダイヤが若干乱れているようだ。
「狩勝」はキハ40の2連だが、ドア横にはかつての急行列車と同じデザインの愛称板が入っているではないか。普段は地味なキハ40もこの愛称板があるだけで格調高い優等列車のように見える。ただ、なぜか愛称板は1両目の前ドア横にしか入っていなかった。
上芽室を後にし、再び国道に乗って帯広を目指す。帯広貨物駅のあたりから道が混みだすが、時間にかなりの余裕が生じていたので気が楽だ。途中でガソリンを満タンにして、クルマを返却したのが10時半。予定より半時間も早く着いた。
このあとは帯広1136発の「Sおおぞら3」で釧路に行き、折り返し1325発「Sおおぞら8」で札幌まで前望かぶりつきをやることになっている。なにせ21か所もの信号場を一気に走破というすごい列車で、これほど多くの信号場を通過する列車は他にない。「スーパー」になってから釧路ー札幌間を乗り通すのも初めてだ。

かぶりつきVIPルーム

帯広駅の待合室で座っていると、「Sおおぞら3」は濃霧による徐行運転のため到着が8分ほど遅れます、との放送があった。霧といえばどうせまた狩勝付近だろう。朝の下り列車が軒並み遅れていた理由が分かったが、自分の乗る列車にまで影響が及ぶとは予測していなかった。
札幌行「Sとかち6」が定刻1136に発車していった。通常なら「Sおおぞら3」の帯広到着と入れ替わりに発車するところだが、今回は急遽西帯広で交換させることにしたのだろう。結局わが「Sおおぞら3」は10分遅れの1145着。釧路では少しでも時間的余裕が欲しいので遅れを取り戻してもらいたいところだが、制限速度ギリギリまで立たせたスジで走っているから、あまり望めそうもない。それに福知山線の事故以来、各社とも回復運転には消極的になっているのではとも思われる。
時刻表と車窓を対照していると、対向列車との交換駅変更が相次いでいることがわかる。しかしえらいもので、交換は全て対向列車の方を待たせてこちらは素通りの大名列車だ。ということは、対向列車はいずれも相当待たされているに違いない。今度は上りダイヤの乱れが気になってきた。
釧路には1310着。所定より7分の遅れだが、さすが看板列車の意地で3分も取り戻したのは立派というべきだろう。この編成がそのまま折り返し「Sおおぞら8」に化けるので、下車するやいなや最前部目指してホームを走り、一番前のドアの列に並んだ。車内清掃が済み、並んでいた人々がぞろぞろと乗り込むと、私は客室には入らず、そのまま運転席下の展望室に向かった。


根室本線旧線跡(新得付近)

それにしても特急列車の貫通扉でかぶりつきができるなんて全く夢のようだ。天気もなんとか持ちそうなのでワクワクしていると、発車直前にビデオカメラを持った男性が展望室にやってきて、小さな三脚をガムテープで窓下に固定し、カメラを回してそのまま自席に戻ってしまった。狭い展望室に2人並んで立つことを思えば助かるが、横着な人やなぁとも思う。私はといえば、信号場に近づくとカメラを窓下に置き両手で支えて録画する。
列車は振子機構の特性を最大限に発揮し、カーブでは思い切り車体を傾けて高速で駆け抜ける。もっとよろけるかなと思っていたが、両足を少し踏ん張ったら案外大丈夫だ。三脚ガムテカメラの人が池田で降り、展望室は完全に私の独占状態となった。
十勝清水では「とかち5」と交換するが、相手が遅れているので停車して待つ。5分ほどして「とかち5」が現れ、こちらもその分遅れて発車。下りダイヤはまだ回復していないようだ。新得を過ぎ、新狩勝トンネルへの大オメガカープにさしかかると線路の両側に防風フェンスを張り巡らせる工事をしていて、徐行区間もあった。きのう広内信号場近くにいたおっさんは、この工事の関係者だったのだろう。
石勝線に入ると高速運転にいっそう磨きがかかる。駅と信号場をすっ飛ばしながら、迫力満点のスピード感と前望風景を存分に味わう。なお、全信号場の前望の様子は後日「信号場応援団」にてレポートする予定なので、お楽しみに。
南千歳から千歳線に入り、最後の西の里信号場通過で21信号場踏破を達成した。達成したと言ってもただ乗っていただけなので別に何も大したことはしていないのだが、もし大したことをしていたとすれば、釧路ー札幌4時間弱、
展望室で立ち通すというアホな行為に及んだことぐらいだろうか。


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